第6話  気に入らないですわ!!

 ヴィスティン王国の中央地点サレスト__


 東西南北の街道が交わる大きな街だ。

 そこへ入る少し手前で、カタリナに追いつかれたレジーナたちである。


 カタリナは、頭に大きなたんこぶを作って泣いていた。

 よりにもよって、レジーナの想い人を跪かせたのである。もっともだが彼女はこれに激怒した。思い切り頭をゲンコツで叩いたのだ。


 愛する姉からそんな仕打ちをされたのは、初めてのことで、しかも、痛いという感覚も知らないカタリナには、何がどうなったらこうなったのかも分からない。

 初めて感じる、『痛み』と姉の怒りが、『恋心』に通じているものだとポポロンが教えてくれた。

 だがカタリナは、クレッグが気に食わなかった。


 目の前で、レジーナとクレッグが仲良く話しているのが面白くない!!


「あんな黒騎士の何処が良いのでしょうか!?」


 カタリナは独り言ちた。


<君の姉さんより、強かったからだよ>


 精霊のポポロンは言う、


「お姉様は、騎士の誰にも負けませんわよ」


<それは、相手が大姫だから。確かに大姫はレイピアの達人だけど、騎士が姫を相手に本気を出せないでしょ>


「黒騎士は、お姉様と正々堂々と戦ってくれましたの?」


<風はそう言ってるね。それで大姫は、黒騎士に恋してしまったと>


 ビルラードの王宮に仕えているものなら、変わり者のちい姫(この場合カタリナ)の独り言には慣れているので、また自分の精霊と話しているんだろうと放っておく。


 ポポロンとのお喋りに夢中になっていたら、いつの間にか日が暮れかけていた。

 秘密の任務なので宿屋に泊まることもない。


 お腹が空いてきたな~と思っていたら、一人の騎士が古着を持ってカタリナのところへ来た。


「フリード・ウェルムといいます。ちい姫の世話係のソフィーの兄です」


 カタリナは、知ってる名前が出て来てフリードを凝視してしまった。

 確かに、目の色髪の色、面差しが似ている。


 カタリナの性格からして、歳の近い者を世話係にした方が扱いやすいのではないかと思った大人……兄王、ラルフォンの方針である。

 普段は、一風変わったただの姫であるが、レジーナのことになると理性が飛ぶらしい。


 母を知らないカタリナには、レジーナが母のような存在なのだ。


「ちい姫、これにお着替えを。そのドレスは先月の誕生日の時にあつらえたものでしょう。マジックボックスに締まっておきます。向こうを向いていますので早くお着替えを」


「あたくし、一人で着れませんわ!手伝ってくださいませ」


「嘘!!」


 フリードは一瞬固まった。そして普段の言葉使いが出てしまった。


「本当ですわ。いつもソフィーに着せてもらってますの。あなたなら良いですわ。許します、あたくしの着替えを手伝ってくださいませ」


 フリードは、頭が痛くなったが、ちい姫の関心を引いといてくれと大姫と隊長から命令されていた。

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