星降る夜は大地の歌を謡おう《姉姫の駆け落ちに妹姫が付いて来た件》

月杜円香

第1話  逃げる姫と追いかける姫

「お姉さま!!お待ちになってェ~!! カタリナも参りますわ!!」


 馬でひたすら、西の街道を進むレジーナは、後ろを振り返りつつ、前に騎乗している黒い鎧騎士に「もっと、早くお願いです」と、頼んでいた。


「無理、姫。ちい姫の方が軽くて、しかも魔法の達人だ。追い付かれるのは時間の問題だぞ」


「あの子……ドレスのままで来てるのです。目立つったらないわ」


「もお~ 止まりなさいったら、止まれ!!」


 一陣の、砂塵を撒き散らし、驚いた馬は嘶きをあげて止まった。


 そこにチャンスとばかりに、カタリナは、乗ってきた馬から華麗に飛び上がって、姉と黒騎士の乗ってきた馬の前に一回り空中で回って着地した。


 そして、この先は行かせないとばかりにレジーナの前に立ちはだかったのだった。


「フフフ」


 カタリナは、不敵な笑みを浮かべてレジーナとクレッグの前に現れた。


「お姉様~ あたくしを置いてくなんて、最悪ですわ」


 レジーナは、馬から降りてカタリナの前に行く。そして、埃ぼうけになった妹のドレスの汚れを掃い観念したように言った。


「カタリナ……お兄様は知ってるの?」


 カタリナは、キョトンとしてレジーナを見た。

 二人の兄というのは、ビルラード王国の現王のラルフォンのことだ。


「カタリナ、分かってます? この行軍が秘密裏なことを」


「お姉様が、お見合いをすっぽかすことと関係があるのですか?」


 カタリナは口を尖れせた。


 たった六人の行軍だ。皆、目立たない騎士のいで立ちをしており、西域の情勢を探ってくるようにと命令されていた。


 その中の隊長。クレッグ・ロゥは、この小隊の隊長であり、姉と共に馬に乗っていたのだ。

 カタリナは、許せるはずが無い!!


「クレッグと言いましたかしら? 黒騎士のあなた?」


 黒い皮の鎧を纏った彼は、気まずそうにカタリナの前に跪く。


「カタリナ・アシス様、参りました」


 カタリナは、クレッグの様子に大変満足した。


 ところがそれは一瞬のことで、彼女は直ぐに自分の姉に説教を食らうことになるのである。



 ▲▽▲


 ルナシエ歴二百八十年____


 八十年前に、『大国ヴィスティン王国』が『古王国のドーリア』を滅亡させ、王都のあった最大のオアシス、『アスタナシヤ』を陥落させ、ヴィスティン王国は、そこを新たな王都『ディナーレ』とした。その周辺の国々にも争いの火種は飛びそうであったが、カタリナの故国ビルラードは、西域からは遠く東方に位置していたために、難を逃れることは出来たが、油断はできない。父のゼフラート、兄のラルフォンと王が代わっても定期的に西域の様子を探っていたのだ。

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