【第四節】咲いた咲いた、お花がさいたよ

第25話 常春区

 特異性とは一体何か?

 その正体を探り入れるのは些か苦労する事になる。

 だが、分かり切っている事があって、特異性は単純明快であればあるほど良いという事だ。

 特異性というのは、無数の糸が絡まって出来た毛玉みたいなもんで、解きほぐせば特異性は自然と消えるんだ。否、元に戻るって言えばいいのかな。

 だからこう、直ぐに解きほぐせれば簡単なんだけれど、単純でなければ無い程時間がかかってその時間の間にもどんどん絡まるから、全然大変な事になっちまうんだ。

 つまるところ、特異性が全部簡単なら良かったのにって話なんだ。

――――――誰かの言葉。






 現在、中瀬七氏は万仲介社正社員である令得れいう美悠みゆと共に、常春区に来ていた。

 万仲介社の方で緊急の依頼が来たものの、他の人達は別の依頼に出張っており、いざという時の役割を担う人が足りないと言う事で、中瀬七氏がアルバイターとして招集されたのである。


「中瀬。」

「はい。」

「まず。今回の依頼の内容の再確認の前に、常春区について確認する。」


 白髪の髪を揺らし、2m越えの令得よりもずっと低い中瀬の顔を覗き込む。

 細められた深紅の目からわずかな緊張を感じられる。

 万仲介社に喧嘩売るくらいなら犯罪組織に喧嘩を売れ。

 そう称される程に危険視され、武勇が謳われる生粋の武闘派組織の一員だが……日和国において最も恐れられるのは残念な事に"組織"ではなく"土地"である。


 どうして"組織"ではなく、"土地"が日和国において最も恐れられているのか?


 そもそも日和国が事実上の独立国状態になったのも"土地"が原因だ。本来それは日本が有効活用しようとしたものの、盛大に失敗し、当時県であった日和国に全てに押し付けた。

 今でこそなんやかんやでうまく行っているが、ともかく日和国の"土地"は曰くつきなのだ。

 もっと具体的に言うのならば、日和国の"土地"は特異性を宿している。

 その曰く付きの特異性を宿す"土地"に、更に重ね掛けするように特異性を宿し、"二重特異状態"や"矛盾特異状態"、"相乗特異状態"、"予測不可能特異状態"など世界でも類を見ない、ただでさえ異常である特異性が更に異常な状態"特異状態"になる事が日和国では多々ある。廃墟区がその一つである。

 普通ならば緊急封印指定を食らっても仕方ない異常事態ではあるが、日和国ではよくある事。故に、あまり危険視されないのだが……。

 そういった危険性が狂っている日和国でも指定第六危険地帯Over Danger Hellという形で近づくな、近づいて何があっても自己責任と区別している"土地"がある。

 現在、中瀬と令得が居る常春区もまた、指定第六危険地帯Over Danger Hellに認定されている"土地"だ。


指定第六危険地帯Over Danger Hellの1つ、常春区。その名の通り常に春模様の区画。梅、桃、桜など、春にだけ咲く木々や花々が咲き誇り、常に桃色、桜色など、ピンク系統に該当する色で染め上げられている。草原地帯でもある為黄緑色などの色もあるが、常春区のイメージと言えば桃色、桜色、ピンク色と声が上がる位に印象強い。そして、指定第六危険地帯Over Danger Hellの中で最も暮らしやすい区画である為に一般住民もいる。"特異性生物"にさえ気を付ければ基本他の危険地帯と比べてはるかに害は無く、また"特異性生物"を恐れて危険人物も来ない為、それさえ除けばトップクラスの治安を誇り、気候も気温も一定である為非常に暮らしやすい。指定第六危険地帯Over Danger Hellの中で最も多くの住民を抱え込んでいる。……それでも、他の区画に比べれば人は少ないが。」

「そして今回のご依頼は、その"特異性生物"の排除、ですよね。」

「ああ。常春区の花乱れ町って所で起きているらしい。被害拡大式増殖型で、少数人数が良いとのこと。死ねば死ぬほど被害が拡大していく為、極力死なないようにだそうだ。」

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