第5話 中瀬七氏(5)
(店長が心配していたの、こっちか。)
こんな面倒な事を起こした奴は、あの黒髪ポニーテールの女性に切り捨て御免された。
では、切り捨て御免された結果残ったのは。
人質にされた日和国の国民達と観光客。
名も無き犯罪者集団を切り捨てた、推定ナイトマフィアの構成員二人組。
エンブレイス警察。それも、恐らく事件対応局事件対応課。総勢三十名越え。
後死体の山。
(面倒な事になったが……。)
エンブレイス警察は、人質である日和国国民が居る為うかつに動けない。
ナイトマフィアは人質の中に庇護下もしくはナイトマフィア構成員が居る。前者ならば隠して二人で状況を打破する必要があり、後者ならばナイトマフィア三人で相手取る必要がある。
人質に関してはどうしようもない。動けない。動いたら共犯、もしくは敵対者としてどちらか、もしくは両方から攻撃される必要がある。
だが、中瀬には関係ないし。
(関わる必要性はない。)
中瀬は眼鏡をそっと外す。
別に、眼鏡は制御用ってだけで、封じる訳でも何でもないのだが。
一度、眼鏡を外さず神苑天稟を使った時、警察や裏社会、あと何故か医師に勘だとか何だとかで見破られたりした事がある。
だからこそ、それらに該当する者達を相手にする時、最悪記憶が失う事を覚悟で中瀬は力を使う。
力を抜いていく。そして次に何も考えない。
体が、心が、消えていく。
何かに同化するように、それとも別の理由か。
分からないが、兎に角消えていく。
――――なにも恐れる必要性はありません。
――――さぁ、息を潜めて。
――――大丈夫、もう誰も貴方に気付けない。
――――だから、誰も貴方を傷つけない。
――――目を開けて。
――――もう、誰も貴方を理解出来ない。
――――匿名希望
最後に中瀬は、優しい声が聞こえた気がした。
「あらあら、遅すぎますねぇ。鈍間な事この上ない。」
「……相変わらず血の気の多い連中だな。血まみれじゃねぇか。」
「ぶるぶる震えてる奴らもいる……。外の方たちですか。」
「……その様子だと、交番の狸の方か。あのタレコミ。お陰でお怒りだよ。」
「はっ。なら、交番か警察署に襲撃してみるか?」
「HSAT課やいかれ検非違使が来るだろ。……たかがあの程度のタレコミ程度ではやらねぇよ。」
誰も気付く事は無い。
エンブレイス警察もナイトマフィアも、人質も。
堂々と、足音を立てて、自動ドアが開かれて、出て行っているのに。
誰も気付かない。エンブレイス警察の包囲網の隙間からこそこそとするわけでもなく堂々と出て行っているのに。
「…………………………!」
「…………………………」
「………………………………」
背後から、二勢力が互いに警戒しながら話し合っているのが聞こえる。
恐らく最後は、ナイトマフィアが死体を引き渡し、人質を解放する代わりに、今回の事を隠蔽するよう要求するだろう。
警察も、人質の安全を確保する為に、それを呑むだろう。
打ち合いをして一番困るのは、人質だから。
多分、色々とゴタゴタはあるし、それぞれの苦労もあるだろう。
だが、中瀬七氏にとって、それらはどうでもいいことだ。
中瀬七氏は寄り道せずに帰宅せよと蛇頼に言われているから。
お菓子だって届けなくちゃいけない。
お使いから四時間後。
一時間で終わる筈のお使いは、三時間も余計に超過して正午頃。
中瀬七氏は帰る事が出来た。
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