日和の国の中瀬さん

小箱甘味

【第一章】日和の国の一幕

【第一節】簡単なお使い

沈黙からの生還

 生者か死者か。

 まぁ、そんなことはどうでもいいんだ。

 こうして生きている事が大事じゃあないか?

 過去を捨て、今を生き、未来へ行く。

 それの何が悪いってんだい。

――――――誰かの言葉。








 何処までも何処までも落ちていく。

 底無き深海の世界を落ちていく。


 一度目は苦痛。

 唖然とした表情を浮かべた――――は、目の前にいる――――を見つめた。

 ――――は一言「――――」と言うと、――――の突き刺さったナイフを抜き差し、一歩二歩後ろに下がり、そして背を向け何処かへ行った。

 それに向けて――――が怨嗟の言葉を投げかけると、意識を失った。



 二度目は静寂。

 ――――と共に杯を交わす――――は、杯の酒を飲み干す。

 そして会話をしていくと眠気に襲われる。まだ話していたいから目を開けようとしたが、どうしても眠い。

 「――――」と声を掛けられ、――――は静かに眠りについた。



 そして、現在。

 確かに深海の様な暗き世界を漂っていた。

 永く微睡んでいた――――は、一気に覚醒する。




 始まりは冒涜。

 ――――の体を暴き、神秘を冒涜した者は、確かに居た。

 深海様な世界を漂っていた――――を叩き起こした誰かが。

 しかし、気づいた時、――――にその記憶すら無かった。

 自らが一体何者であったのか、何があったのか。

 それすら忘れた――――は、日和の国で確かに目覚めた。






「こんにちは」

「こんにちは?」

「何をしているんですか」

「分からない」

「貴方の名前は」

「分からない」

「そうですか。では、貴方は中瀬なかぜ七氏ななしと名乗りなさい。」

「私の名前?」

「貴方がそうだと思うのならば」

「そうですか」

「ついてきなさい。此処ではすぐさま殺されるでしょう。幾らここでは生と死が曖昧であれども、死ぬことは些か気分が良くない。そういう風・・・・・になっていますから」


 差し伸べられた手を一旦見つめる。

 どうすればよいのか。

 私の様子を見た彼は己を蛇頼だよりと名乗ると、強引に手を取り引いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る