推しの姉になりまして

小糸 こはく

第1話

 ママとお義父とうさんは仕事が忙しいから、朝はすぐに食べてもらえるパン食にしている。

 サンドイッチを作ることが多いかな。簡単だから。今朝もサンドイッチにした。

 ふたりはついさっき、ぬるめのコーヒーで流し込むようにして朝食をとると、慌ただしく家を出て行った。


(せっかく作ったんだから、もうちょっと味わってくれてもいいでしょ)


 そう思うけど、仕事が大変だから仕方ないよね。ふたりはそれぞれ、自分の会社の社長さんだし。


 実の母親と、義理の父親。ふたりが結婚してから、まだ2週間しか経っていない。

 新しいお義父さんはいろいろ気を使ってくれるけど、気を使われると私も気を使っちゃうから、普通にしてくれた方が助かるかな。

 ママは仕事、私は家事。10歳からそれを続けてきたから、ご飯を作るなんてただのルーティンで、大変でもなんでもない。


「大学で大変なのに、家事を押しつけて申し訳ない」


 とか? そういうのいらないです。


「よければ、お手伝いさんを入れようか」


 そんなのとんでもないです。ムダ遣いでしかありません。

 私が大学に通えるのはママがお仕事を頑張ってくれてるからで、これからはお義父さんも私をやしなってくれるんでしょ? だから役割やくわり分担ぶんたん。家族ですから。


 それに私、パパの記憶ってほとんどないから、お義父さんができて嬉しいの。

 18歳。大学一年生の成人が今さら「おとうさん」に甘えることはないですけど、嬉しいのは嬉しいのですよ。


 両親が使った食器を片付けて、私は自分と弟の朝食の準備にかかる。弟と言ってもママの再婚でできた新しい弟だから、血のつながりはない。

 弟は15歳の高校一年生。彼のことを考えると私は、わ、わたしは……はぁ、はぁ、平常心ではいられませんっ!


「おはよう、姉さん」


「は、はい。おっ、おはようございまっしゅっ!」


 リビングダイニングに入ってきた彼の挨拶あいさつと笑顔で、私の今日が始まります。最高の朝です。生きる喜びにあふれます。


「いつまでそんな他人みたいなの? 僕たち姉弟きょうだいなのに」


 苦笑にも見える笑顔の彼。そ、それはわかってますけど、姉弟といってもまだ新米しんまいですよ? 私たちが姉弟になってまだ2週間です。

 そんなにすぐは慣れません。ムリです。とんでもないですっ! 私ってば、お義父さんは平気なのに、弟には敬語になっちゃいますっ。


 すでに身なりを整え制服姿の彼が、テーブルにつきます。私がお皿に乗せたサンドイッチとサラダを運ぶと、


「今日もおいしそうだね。ありがと、姉さん」


 はうぅっ! や・め・て、お姉ちゃんおかしくなっちゃうよぉっ!

 心臓が潰れちゃうっ! ぅっ……吐きそう。あまりの幸せで、うぇ~ってなりそう。


 弟のお褒めの言葉に「なにか返さないないと」と思うけれど、私の口は動いてくれない。彼のお顔に見とれてしまってフリーズ状態。


「いただきます」


 家の中が、朝の光でキラキラしている。

 あれ? この部屋、こんなに日当たりよかったっけ?


 彼の男の子っぽいキレイな手が、私が作ったサンドイッチに伸びて……つっ、つかんだっ! 最初に卵サンドをつかみました。好きですか!? 卵がいいんですかぁ~!


 当たり前のように、彼の口元へと卵サンドが運ばれます。

 そして、


 もぐっ


 食べたっ! 食べたあぁーっ! それ私が作ったんですよ、卵焼いて味つけして、バターとマヨネーズを塗ったパンで挟んだんですっ!


 私が、私が作っ……素手で作りましたがちゃんと手は洗いましたからあぁ~っ!

 はぁ、はぁ……苦しい、心臓が苦しい……。


 もぐもぐと、私が手作りしたサンドイッチを食べてくれる弟。

 はぁ~……可愛いですっ! カッコいいですっ! サンドイッチを食べているだけなのに、なんでそんなにステキなんですか!?

 もう、めっちゃ可愛かわいカッコいいですぅっ!


 どうしましょう、こんなの耐えられないっ!


 エイムくんが、あの「悠木ゆうきエイムくん」が私の弟になるなんて、そんなの妄想したこともなかったよっ!

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