いつも近くで

伏見同然

いつも近くで

今この瞬間、世界で一番彼女の近くにいるのは僕だ。


「大嫌い。ムリ」

そう言われた瞬間、僕と彼女の距離は世界で一番遠のいた。

僕たちがいる駅前広場には多くの人が行き交っていて、今彼女の横を通り過ぎた知らない女性のほうが、僕より彼女に近い存在なのかもしれない。それでも、物理的な距離が彼女と一番近いのは、この宇宙で僕だけだ。


彼女はスマホで誰かとメッセージをしている。

その誰かは、ここにはいないけど、僕より彼女に近い人間なのだと思うと悔しい。


「ごめん。やり直してほしい」

僕の言葉に涙を浮かべる彼女を見て、彼女が近くに戻ってきたような気がする。


「こわい。もうやめて」

また彼女が見えないくらい一気に離れた気がする。


「もうダメだ。一緒に死のう」

僕が取り出したナイフを見て、彼女は目を見開いた。

瞳には僕の顔だけが映っているはずだ。


「やめろ!」

知らない男の声が後ろから聞こえた瞬間、僕は羽交い締めにされる。


彼女から引き離されていく。

彼女の姿が遠のいていく。

彼女はもう見えない。


僕は彼女の一生忘れられない記憶になった。

僕は彼女の中に住み続ける。


今この瞬間、宇宙で一番彼女の近くにいるのは僕だ。

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いつも近くで 伏見同然 @fushimidozen

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