本日、訳あり軍人の彼と結婚します~ド貧乏な軍人伯爵さまと結婚したら、何故か甘く愛されています~

華宮ルキ/扇レンナ

第1章

第1話

 ちらりと窓の外を見る。窓の外には、はっきりとした三日月。


(今日は、きれいな夜空が見えるんだな)


 雲一つない夜空には、きらきらと星が瞬いている。でも、一番視線を引くのはやっぱり三日月だ。


 そう思いつつ、律哉りつやは久々に士官学校時代の同期たちと飲んでいた。


「いやぁ、それにしてもなんていうか。こうやって集まるの久々じゃね?」

「あぁ、そうだな。……士官学校を卒業してから、疎遠だったからな」


 集まったのは律哉を含め四人。士官学校時代、それぞれの分野で主席を治めてきた、いわば学年のエリートたち。


 その中でも律哉は特に成績優秀であり、それぞれの分野で一度は主席を治めている。合わせ、卒業時の成績も主席だった。


 ある意味エリート中のエリートであり、出世コースを約束された人物。しかも、美しい容姿を持つ彼を女性は放っておかない。……ただ、律哉は誰のことも相手にしなかった。


 だって、所詮自分は『一時期の遊び相手』にしかなれない。自分のような人間と本気で結婚を考える女性など、いるわけがないのだから。


 誰だって、沈むのがわかっている泥船になど、乗りたくない。


「というか、俺ら翌日休みじゃないと飲めないしな……」

「全く、軍人って楽じゃないよなぁ」


 けらけらと笑って言葉を交わす三人を一瞥し、律哉は小さくため息をついた。


 正直、飲み会などはごめんだ。でも、親しくしていた学生時代の同期だから。……なけなしの金を使ってでも、会おうと思ったのだ。


(これはケチなんじゃない。守銭奴という奴だ)


 それは都合よく言い換えたケチなんじゃないか……と、自分でも思う。が、そう思っていないとやっていられない。


 その一心で、律哉は目の前の酒を飲み干す。


「おい、律哉。そんな勢いよく飲んだら、酔いが回るの早いぞ?」

「お前らには言われたくない」


 すっかり出来上がった三人を見つめつつ、律哉はため息をつく。


「大体、お前らに俺の気持ちなんてわかるわけがない」


 悪態をついてしまったのは、側にいるのが気の許せる友だからなのか。


 それは定かではないものの、律哉は頬杖をつく。思い返せばここ三年。エリート軍人としても、華族の人間としても。全く華々しく出来なかった。元々華々しく生きるのは好きではない。が、月一くらいの贅沢さえもできない状況が、律哉にとっては不本意でしかない。


「別に華々しく生きたいわけじゃないんだ。……ただ、それなりに。つつましく幸せに生きたかっただけなんだ」


 自然と口から言葉が漏れる。


 律哉だって好きで守銭奴になったわけじゃない。合わせ、女性から『一時期の遊び相手』として見られたかったわけじゃない。


 好きになった女性と添い遂げて、普通の家庭を築きたかっただけなのだ。


「なのに、ふたを開けてみれば借金の返済ばかりだ。……正直、もう疲れている」


 それは紛れもない律哉の本音。日々身を粉にして働いて、働いて、働いて。使用人にも一人残らず暇を出したので、たまにの休みは邸宅の掃除をはじめとした家事でつぶれる。


 こんなエリート軍人がいるだろうか? いや、絶対にいない。


(俺はなんのために軍人になったんだ……)


 そう思ってしまうほどに、律哉の現状はひどいものだった。


「ま、まぁ、律哉。……今日は俺らのおごりだし、パーッと飲もうぜ」

「そうそう。お前の苦労を、俺らはわかってるつもり……だし」


 苦笑を浮かべた同期たちが、酒を注いでくる。そのため、律哉はまた酒を口に運んだ。


(こいつらはこう言ってくれるけど、本当に苦労なんて理解してないだろ……)


 自分が作ったわけでもない多額の借金を返す苦しさも。女性から『一時期の遊び相手』としか見られない虚しさも。


 そんなもの、同期たちにわかるわけがない。いや、分からなくて構わない。


(こんな思いをするのは、俺一人で十分だ)


 結局、こういうところがお人好しなんだろう。


 士官学校時代。指導官たちから言われた「お前はお人好しが過ぎる」という言葉を、ふと思い出す。


(でも、俺だって友人じゃない奴らには、こんなこと思わないさ)


 ただ、友人だから。こうやって律哉を労わってくれて、苦労をわかろうとしてくれるから。


 こんな風に、思いやれるだけだ。


 そう思いつつ、律哉はまた酒を口に運んだ。

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