第35話特殊個体の魔物

 大森林地帯から戻った私達はレナ達に素材を渡し、解散した後宿屋に帰る。

 私達は同行しただけなので特に報告する必要がないというのあるが、歩き通しと戦闘により空腹であった。

 本当なら食事に誘いたいところだが、報告をしている間にフレイアが閉まるからと、レナ達は気を利かせてくれた。

「帝都のギルドは北西城下町からだと・・・距離が離れてるのです」

「東城壁門に回り込むか、北西城壁門から行くことになりますわね」

 帝都のギルドは東城下町にあり、大森林地帯の討伐依頼が多い割に利便性が悪い。

 他国から来た冒険者達もギルドの簡易施設を北西城下町に建てれないかと話がでていたりもする。

「・・・北西城下町にそんなスペースなさそう、建物密集してるし」

「王都のギルドも中層にありますけれど、一応北側と南側に一棟ずつ設立されてますわね」

 私はその事を知らずに、ずっと中層南区のギルドに報告していた・・・冒険者ギルドは1つだけという先入観が私の中にあったのも要因だが。

「フィオナの場合、いつも空から直接行ってたというのもありますわね・・・距離を意識したことがないのではなくて?」

 ミリーの言葉通りではあるが、王都の地形は高低差も相まって徒歩では時間が掛かると認識はしていたはずだったのだが・・・いつの間にやら物理的な距離を意識することがなくなっていたらしい。



 ミリーとユラが宿に荷物を置いてフレイアに向かうと、店にアイリとリアが入っていくのが見えた。

 リアはほぼ毎日フレイアで食事をしているよう・・・売上に貢献はしているのだから問題でもないだろう。

 王都から出発する前に、国王様から大型ゴーレム討伐の報奨金を貰っていたが・・・基本が硬貨な為金貨や銀貨を大量に持ち歩けないからとリアに預けている。

 リアが使っているのはつまりその硬貨なので、毎日外食だとそれなりに減るのだが・・・この世界で料理したことはないので私も人の事は言えないかとフレイアに入店する。

「帝都に来て日は浅いですが、リアは1日何回来てるのです?」

 後に入ってきた私達に気づいたアイリは窓際の席でミリーとユラを招きメニューを眺め、リアはカウンターに座っている龍人男性の隣の席に着いていた。

「3回くらいじゃな、こっちの龍人貴族も最低2回は来てるそうじゃ」

 早くも顔馴染みになっていた龍人貴族がこちらに会釈する、まるで昔馴染みのような空気感であった。

「君がリア様の仰っていた子だね、最初に見かけたときから気になってはいたけれども」

 リア越しに龍人貴族の男性が私の顔を見て何やら納得しているようだが・・・初日が騒がしかったとかだろうか。

「その様子だと龍族が魔力の性質を視れることは知らぬようじゃな、妾とフィオナに興味があったらしいのじゃ」

 龍族という言い方だと種族的に視れるということになるが・・・となれば王都の龍人貴族も認知していたということだろうか。


 私はミリー達の席には行かず、リアと龍人貴族の話を聞いてみることにした。

「あ、フィオナちゃんもいらっしゃ~い」

 ミリー達の注文を聞いて厨房に向かうノアがお冷やを出しながら声を掛けてくる、アイリではないが私もステーキを注文することにした。

「ゆっくりしていってね~」

「ありがとうなのです。・・・リアを様付けするということは正体に関してはご存知で?」

 龍族の上下関係はよくわからないが、上位である龍人が初対面のリアを様付けしているのはそういうことなのだろう。

「魔力の視えない方など古龍様しか居られませんので、まあ視えにくい人族もいますけどね」

 ミリーとユラも同じ事を言っていたが、少し違うのは視えにくい人族という部分だろうか。

「魔力を持ってない人族もいるのです?」

「魔力を持っていない生物は確認されていませんよ、魔石を内包していないというなら別ですけれど」

 龍族と魔族以外の種族は魔石を内包していないが、魔力が使えるかどうかはまた別と・・・リアと私は使えない方ではあるのだが。

「私はヒュージといいます、見ての通り龍人だよ。君は不思議な魔力の流れをしているね」

「寧ろ止まっておるがな、ある意味で唯一魔力を扱えない人族と言えなくもないのじゃ」

 色々失礼なやり取りではあるが、その通りではある・・・もしかして身体の成長もそれが影響していたりするのだろうか。

「それはそれとして・・・建国祭が来年に控えている割には帝都内でそれらしい様子は見られないのです」

 メディア媒体があるわけでもないからポスターくらいは貼られてるかと思ったが、特にそういったものも見られなかった。

「その事ですか・・・アーシルの件を表沙汰にしないための方便と、言ってしまえばそれまでになるけれどね」

 王都での大型ゴーレムと同じく、各国の国民達への配慮ということらしい・・・簡潔に述べると延期する可能性もあるから宣伝はまだと。

 魔海での大型の魔物はそれだけ危険視されているようだが、すぐに解決させれる問題でもないため各国の上層部で情報をある程度統制しているようだが。

「君主制でもない共和国だと・・・情報統制はどこが担当するのです・・・?」

「クルス商会が統括して共和国内の各地区長とギルドマスターと制限しているね、特に冒険者への討伐依頼規制なんて100年前の時ですらここまでしていないよ」

「ひゃ・・・100年前にも出没していたのですか?」

 それに関してリアは何も言ってないが・・・100年前にもコーザル体が出現していたということだろうか・・・

「ふむ、100年前だと妾は眠っておったが、そのような素振りは感じなかったのじゃが」


 話を聞いてみた所、100年前の事とは周期的に出現するという特殊個体の魔物が存在するということだった。

「私は龍人貴族ではそこそこ長く生きてる方でね、と言っても約270年くらいだけどね」

 帝都には200年以上住んでいるということらしく、その間に2回その特殊個体と抗戦したという話らしい。

「ふむ・・・どうも過去2回はコーザル体ではないみたいじゃが、今回のもその特殊個体ではないのかの?」

「はい、いずれもルスカと命名された魔物です・・・現在アーシルで確認されてるのも同じ特徴を持ってはいるのですが・・・」

 200年前のルスカは討伐に成功しており、100年前出現したのは撃退したとのこと。

 今回の特殊個体ルスカはその時の奴なのだろうか、完全復活した上にパワーアップしたとか。

「大きさが別物らしく、我々龍人が元来の龍化した姿の3倍はあるみたいだよ」

 龍の姿・・・この2階建てのフレイアと同じくらいとのことだが、大型ゴーレムとは比べものにならない大きさだ。

 あのゴーレムは精々ジオ4体分の高さ・・・約7メートルくらいだった。

 魔海の特殊個体は20~30メートルはあるみたいだが・・・全長までは分からないな。

「過去2回は上陸してきたのに対峙する形だったみたいだけど、今回は沖から動いてこないと報告されてるね」

「なるほど・・・討伐隊をアーシルに向かわせたとしても沖にいるから下手に手出しもできないと」

 国級魔導術の射程圏内ではあるものの、仕留め切れなかった場合が問題とのことだ。

「我々も加勢したいところですが、魔海は龍族の魔石にも影響する可能性がありますからね」

「龍族が暴走とかしたら人族が終わりそうなのです・・・と、ミリー達は帰ったみたいです?」

 私達が話に集中してるのを邪魔しないようにしてくれたのか、単純に長話だったからだろうか。

「続きはまた今度にすればよかろう、現状手出しできないのであれば急ぐ必要はないじゃろうしの」

 勘定を終えフレイアを後にし、宿に続く通りをリアと歩く・・・そういえば閉店時間過ぎていたが、ノアのお姉さん・・・フィアさんの姿を見なかったなと考えていると。

「フィオナ!」 バチィィンッ! 「!?」

 リアの声にびっくりした瞬間、私は背後から攻撃を受けていた。

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