第24話近接職はやはり強いのです
この謁見の間は広く、人が20~30人横に並んでも十分なスペースがあるようだ。
1対1の戦闘なら余裕はあり、天井までも高く空を飛ばない限り十分な高さもある・・・とはいえ王家の前で戦う事は想定してなどいなかったが。
「しかし魔導学院の生徒が鎧姿で戦うというのも珍しいことだな」
国王様も何だか楽しそうにこちらを見ている・・・なんとなくミリーのドヤ顔が脳裏をちらついたことからやはり親子かと認識してしまった。
「合同戦は拝見したけど、ギルドからの冒険者ジオの戦い方とは随分印象が違ったね。」
金髪の青年・・・ミリーの兄のようだ、王妃様の隣の女性は姉、もしくは妹なのだろうか。
王家の人達は皆美男美女である、という特に今のこの状況に関係ないことを考えていると。
「俺は近衛騎士、副団長。国王陛下の前での戦闘は少女には荷が重いかもしれんが・・・・・・その鎧姿を見るとそうは感じられないな」
「緊張しっぱなしなのです・・・声をジオに戻しますので少々お待ちを・・・・・・失礼、合同戦とは違う空気感で少し戸惑っていますよ」
まあそうだろうねと副団長殿が呟く、この謁見の間で執り行われるのは精々近衛騎士団長任命の際の仕合くらいのものだそう。
わざわざ冒険者の実力を見るのに使う場所ではないだろう・・・ミリーが心配なのか単に私の戦闘方式が気になっただけなのかは不明だが。
「お手柔らかにお願いしよう・・・ブレード展開」
「では、いざ・・・・・・抜刀」
ファンタジー的にはこういう場での戦闘は王様を狙った刺客を撃退・・・というイメージだったのだが、異世界も色々なのだろう。
副団長の振り下ろしてきた剣を右籠手のシールドで受け、左籠手のブレードを突き出す。
すぐさま剣で横に流され、そのまま下からの袈裟切りが飛んでくる・・・シールドをブレードに切り替え受け流し屈みながら左籠手のブレードを右に振り切る。
後ろに飛ばれブレードは空を切る・・・やはりこの世界の人との近接戦を押し切るのは厳しいようだ。
直ぐに踏み込まれ防戦に追い込まれる、剣の連撃を去なすだけでもギリギリである・・・ジオの思考操作でないととてもではないが受け切れないだろう。
謁見の間で魔導術の使用はあまりよろしくないだろうが・・・・・・実力を見るならこちらの手の内は出しても許してもらえるだろうか。
横凪の斬撃をシールドで受け流し、スラスターで一旦空中に退避する・・・ユラの時の経験もありまともにやり合っても勝てる気はしないな。
改造短剣をジオ背後の視覚外から4本転送し、左右に浮かせブレードを展開させる・・・着地を狙われないように副団長へと4本の自律ブレードを射出し高度を落としていく。
ブォン ブォン バチンッ ブォン バチンッ
ジオの動作と併用している4本の自律ブレード操作が精密ではないとはいえ、不規則に飛んでくるブレードを器用に払っていく・・・小手先の技は通用しないか。
着地した後右籠手のブレードの出力を少し上げる、改造短剣のブレードに対抗してるここが狙い目・・・王様達に飛ばさないよう射線が外れているのを確認し前方目掛けてブレードを振る。
ブォォォンッ!
ブレードの斬撃を射出し光波が副団長へと迫る、回避が間に合うタイミングではないはず・・・
バチィィィィンッ
副団長は光波に魔力を込めた剣を振り下ろしそのままかき消してしまった。
ミリー達にも見せていない初見の攻撃を防ぎきられてしまっていた・・・反動で後方に体勢は一瞬崩れたが、既に剣は構え直されており隙はつけそうになかった。
とそこで王様は立ち合いを止めるのであった。
この世界の近接職とは正面からやり合いたくないと心底思いながらブレードを消失させる、副団長も剣を納め立ち直っている。
「いや見事・・・とはいえ凄まじい戦闘方法であるな。魔導具の域を越えておるぞ」
「俺もこんな攻撃は初めて受けたな、第三騎士団の話しにもこんな攻撃手段は報告になかったぞ」
こちらにしても初見の攻撃を完全に去なされるとは思っていなかったのである、確かにライトニング・バレットに比べたら弾速が遅いとはいえ。
あそこで防がれず切り裂いていても大惨事になっているから少し安堵もしてはいる。
「さて・・・改めて鎧を脱いで見せてはくれまいか?やはりミリアの話と印象が繋がらぬのでな・・・」
「あ、はい・・・少々お待ち下さい・・・」
胸部装甲を左右に開き、頭部装甲を上に開閉し鎧から降りる。
緊張を解くべく深呼吸して息を整え、改めて国王様を見上げる。
「そうなっておったのか・・・確かにこれなら気付く者がいないのも納得ではあるが・・・」
「ミリアちゃんの言ってたとおり可愛い子ですわね~」
私の素顔を見た人達の反応は様々だったが、どうやら対峙した副団長が一番驚いているようだった。
というかこの人が副団長なら団長さんどんだけ強いのだろうか・・・やはり異世界人恐るべしということだろう。
場所は王の部屋へと移り私は用意された椅子に腰を掛け、床に届かない足をプラプラさせながら王家の人達と話を交わしていた。
「ミリアと同い年には見えないわね・・・可愛い・・・」
ミリーのお姉さんに頭を撫でられながら室内を見回すと立派な部屋だとしか感想を述べられない。
一般人がこういう場所にくる機会などないから謁見の間とは別の緊張を感じてしまう。
「ミリー・・・ミリアちゃんは王城には帰っているのでしょうか?シュタッド理事長から部屋は用意してもらってるとは聞いているのですが」
美人に囲まれてると落ち着かなくなる兄のアストの気持ちが少しわかった気がした、肉体的には同性である事から錯覚に過ぎないはずだが。
「時々帰ってきては書庫で本を読んでますね、勤勉な子ですが実力行使も多くて・・・」
「冒険者になると聞いた時も外堀を先に埋めるところがあの子らしいけどね・・・龍人貴族も一緒だとは思いもよらなかったよ」
リアが戦闘に参加することはないけど、この世界最強の抑止力を使う機会がないことを祈るばかりだが。
ユラとアイリもいる状況ではそんなことにはなるまい・・・相当強力な魔物とでも遭遇することがない限りは。
「冒険者になってからの予定もあるだろうが、その事について話があってな」
王様が改まって話があるということだが、私達も正直冒険者になってもやることは決まってない。
「帝国でもジオの話は耳にしておるらしいのだが・・・フィオナ君達の事も一部で広まっておってな」
「はあ・・・確かにミリー達の実力は合同戦で明らかになっているでしょうけど、ジオが帝国で認知されてるとは思わなかったのですが・・・」
討伐依頼で同行した冒険者が帝都に赴いた際に話した・・・そんなところだろうか。
「それ故に帝国側からジオに話を通してほしいとの知らせが届いておってな・・・」
ギルドではなく王家の方に直接話がくるというのはただ事ではなさそうだが・・・
「ここ最近魔海で大物が出現しておるらしいのだ、現在防波堤の役割を担っているアーシルで警戒態勢をとっておるとのことだ」
元は傭兵国家と呼ばれていたアーシルは魔海が発生してからは各国の騎士団、冒険者が集う魔物の防波堤として機能する国である・・・規模は縮小しているらしいが。
アーシルへの派遣依頼は報酬も高いかわりに危険度も相応に高く、冒険者の場合ミスリルが最低必要になるらしい。
「第二騎士団の遠征もこれが関係してるのでしょうか?」
「第二騎士団にはアスト君も所属していますね、優秀ですが今回の件に関しては少し危険ではと報告はしましたが」
入口に立っていた騎士団長が声をかける、第一騎士団が向かう方がいいという話にもなっていたらしい。
王都が比較的平和とはいえ大型ゴーレムの件もある・・・迂闊に主力が出て行くわけにもいかず、第二騎士団に向かわせたという話だった。
「この話の流れだと、私はジオとしてアーシルに向かう事になるのでしょうか・・・?」
「問題はフィオナ君の空を飛ぶ魔導師の力も借りられないかといわれてな・・・学院卒業間近の少女ということは伝えたのだが・・・」
所謂、空中偵察の人材がほしいといったところか・・・残念ながら同時には無理である。
「先程の仕合を見るに、フィオナ君はあの鎧の状態でも飛べるようだが・・・杖を使用せずにあのような事が可能とはな」
「私のディオールの杖は恐らくミリー・・・ミリアちゃんが使った方が真価を発揮するとは思うのです・・・」
「そうであるか・・・魔導師はよく知っておるが、娘もかなり変わった使い方をしておるようだな」
見た目だけなら私以上に魔導師してない気がするが、ユラに至っては鞘で魔導術を展開させるし・・・私達のパーティーはかなり奇抜である。
「卒業後は帝都に向うということで・・・アーシルには帝都に到着した後、頃合いを見計らって私が別行動で行く・・・とりあえずこのような感じでしょうか?」
魔海に向かうならいっそリアに付いてきてもらいたいところだが、ここはミリー達といてもらう方がいいかもしれない。
「頼まれてくれるか、娘と同い年の子に危険な場所に赴けというのも心苦しくはあるが・・・」
自分の力を過信しているわけではないが、少なくともあの大型ゴーレムのような防御手段を魔物が持ってるとは考えにくい。
現在確認している状況で警戒態勢という事なら、遠距離攻撃をしてくるわけでもないだろう。
実際に見てみないと何とも言えないのが正直な感想である。
「ミリー達には話さない方がいいかもです・・・心配をかけるのもあれですし」
話すと一緒に行くってなりそうなのもそうだが、王女をわざわざ危険な所に誘うわけにもいかないだろう。
冒険者になるとはいえ、早々に危険地に行かせるのも気が引ける・・・それを気にする子達じゃないだろうけど。
なんならいっそのこと、アイリをその大物のとこまで運んで全力で斬らせたらそれで終わるかもしれないが。
「後は帝都についてから考えます」
「そのあたりは任せるとしよう、帝都のギルドでジオのカードを確認させれば皇帝にも伝わるであろう」
行き先が最初から決まっているのを冒険というのかはともかく、初めての旅に少し心を躍らせるのだった。
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