第8話権力はやはり強いのでした
晴れて入学することができ、私ことフィオナ・ウィクトールと初めての友人となったミリー・シュタッドは学院正面から右の棟一階の一室へと向かう。
「あの掲示板の公開処刑は残酷だと思うのです」
点数こそ書かれてないものの順位はしっかり掲載され、私は見事にビリだった。
「仕方ないのですわ、実技のみでの補欠合格のようなものですもの」
ということで通したみたいだ、まあ入学できただけで良しということで文句は言えないだろう。入学してからでなく入学前からこの世界の一般教養を叩き込まれたので既に燃えつきかけている私である・・・
「入学式終わって教室で何をするのです?」
「一週間の授業日程の確認と諸連絡ですわね、その後自己紹介をして今日のところは解散ですわ」
とそんなこんなで入学イベントは滞りなく進み、何事もなく午前は過ぎていった。
自己紹介も済み解散となったところで帰り支度をしていると3人組に声を掛けられた。
「あの・・・初めまして、俺カームといいます!これからよろしくっす!」
魔導師的には珍しそうな体育会系の男の子が自己紹介をしてきた、入学試験の時も掲示板前でこの子達3人一緒だったなぁと思い出す・・・仲がいいのはいいことだ。
「どうもです、私はフィオナといいます~」
「よろしくっす!入学試験の実技、凄かったっす!」
すごくグイグイきて少し後ずさってしまった・・・圧が強いのはミリーだけで十分である。
「カーム、フィオナちゃんびっくりしてるじゃない!ごめんね私はココ、これからよろしくね」
「僕はソレル・・・ま、まあカームが凄いっていうのも納得の魔導術でしたね、でも僕達はまだ原石であってこれから・・・」
あ、他の2人も割と圧が強かった・・・ソレルという男の子が長く語る中ミリーがこちらに近づいてくるのが見えた。
「ごめんなさいませ、私(わたくし)と用事がありますからまた次の機会にお願いしますわ」
と私の手を握りその場を離れるのであった。
用事があるのはただの口実かと思いきやミリーは私を理事長室の前まで連れてきた、どうやら割と重要な話があるらしかった。
「失礼しますわ、理事長。つれてまいりましたわ」
「ありがとうございます、ミリーさん。」
立派な髭の老人、理事長のノーマン・シュタッドは私達を応対用のテーブルへと招き、改めてと話を始める。
「事情が事情ですのでどこから話すべきか迷いますな・・・まず私の事はご存じですかな?」
「あ、はい・・・ノーマン・シュタッド理事長でございますよね?」
そういえば改まって直接話すのはこちらも始めてである、入学前から色々あって何を言われるのか検討がつかないのではあるが・・・
「最初に魔導具の件は失礼を、他の教師は事情を知らぬ故・・・あの場はああいうしかなかったものでな」
「?その言い方ですと最初から知ってたみたいに聞こえるですよ・・・?」
ええ、と相槌を打つとミリーが話に続いた
「私(わたくし)もあの場は疑うように振る舞いましたわ、正直あんなことまでできるとは思ってませんでしたが」
「フィオナ君の冒険者ジオとしての働きはこちらにも伝わっておるのだが、一部の人間しか知らぬのでな・・・」
・・・そういうことか、確か大掃除でジオの鎧が両親にバレたその日にギルマスが訪ねてくるということがあった。
年齢詐称の件で問題をギルマスが受け持ってくれジオの・・・というか私の登録抹消を上に掛け合ったとは聞いていたが理事長にも話がいっていたようだ。
「ギルマスが上に掛け合ったと言う話だったですが、ギルドの長の上っていうのは・・・」
「クロウディル王家のことですわ、その事についても私(わたくし)から話がありますの」
王族まで絡んでしまうほどの事態だったのかと、年齢詐称だけでここまで話が大きくなるのは想定外であった。
「私(わたくし)の本当の名前はミリア・クロウディル、王家の第三王女ですわ」
想定外からの爆弾まで投じられたのであった・・・
シュタッド家の遠縁としてミリー・シュタッドという名でこの学院に入学、その本名は王家の第三王女ミリア・クロウディルということらしいのだが・・・私の頭は只でさえ入学前にオーバーヒート気味だというのに王族?
まったく理解できないという感情が顔に出ていたのかミリー・・・ミリア王女が話を進める。
「畏まらないで下さいまし、フィオナ・・・今まで通りに接してもらいたいのですわ」
「は、はあ・・・王女様が魔導師を目指してるのですか?」
それならそれで貴族エリートが集まる王立の魔導学院があったはずなのだが、何故私立のほうに・・・いや最初から私のことを知ってたのは初めて会ったときからわかってはいるのだが。
「あなたに会うためにシュタッド理事長に話をして協力してもらいましたわ、理由は本当に単純なこと・・・あなたに憧れたからですわ」
首席での入学を果たしてるような人間が憧れとは・・・憧れたというのは私ではなくジオのことだろうか。
「なるほど、ジオの正体が私みたいな子供だと知って興味が湧いた・・・ということです?」
「違いますわ、もちろんジオがフィオナだったというのには驚きました・・・私(わたくし)の魔導師の認識を変えてくれたのがあなただったのですわ」
ジオの件が王家に伝わった際にそれが子供だったという話を聞いて興味がでたのではなく、空を飛んで闘技場に向かった姿が印象的だったそうだ・・・6歳の頃の話かと思い出してる中ミリーは話を続ける。
「私(わたくし)は5歳の時に宝物庫で空間記録のアーティファクトを使ってしまったことがありますの」
ようは映像記録をする魔導具のことだがそれでみたという映像は400年以上前の大戦、魔王や勇者がいた時代の記録だった。
「その時の勇者パーティーの魔導師、帝国の宮廷魔導師で歴史にも名前が残ってる方の姿が・・・私にはとても恐ろしいと感じましたの」
その宮廷魔導師は暴風を纏い空に浮き雷を降らし魔族を倒す・・・私的には凄い魔導師がいるなぁと言う程度だが当時の5歳のミリーはそれに恐怖感を覚えたとのこと。
「その記録の中の魔族が、人族に畏怖を感じてるのが伝わってくるほど・・・私(わたくし)にとっての空を飛ぶ魔導師というのはそんな存在だったのですわ」
その印象が強く残ったまま6歳になったときに見たのが闘技場上空を飛んでた私だったと・・・同じ空を飛ぶ魔導師でもそれはまったく違う光景に映ったということであった。
「王城から何度か外に出た時、あなたの飛んでる姿を周りの民達は笑って手を振っていました・・・この王都に住む人達の空を飛ぶ魔導師の印象は微笑ましい日常の1つとなったのですわ」
「ミリーにとって魔導師は怖いものだったのですね、私のこの姿では恐怖を与えるほうが難しいかもです」
多少、厳つい杖を使ってるとはいえ見た目は幼い少女・・・ウィクトール家の人柄も相まって私の印象自体が元々マスコット感が強かった。
「それで7歳から魔導師の勉強や鍛錬して今に至るのですわ、ジオの話を聞いたときには耳を疑いましたが・・・全身鎧の大柄な男とフィオナの姿がまったく想像できませんでしたわ」
とそれまで話を聞いていた理事長がその事なのですがと話に加わる。
「そのジオの件で独自に完成させた魔導具の鎧を扱う匿名の魔導具職人・・・と言う話でギルド内では通してる事になっているのだが、その鎧は実際どういう物なのかと」
「ハリボテなのです、素材は鉄板と銅板なので防御力もないことはないとは思うです」
「「え?」」
魔導具に用いられる素材ミスリルとディオールにはそれぞれ特徴があるミスリルは普段はとても軽い金属だが魔力を通すと重くなり、反対にディオールは普段は重く魔力を通すと軽くなる・・・度々魔導具職人の間ではどちらが優れているのか論争が起きるらしいが今は置いておく。
「魔力伝導率は銅板でも十分なので鎧の内側に張り巡らせて部位を動かし、ブレードとシールドは籠手から直接発生させてるです・・・術式は刻まれてはないのであの鎧は見た目を誤魔化すのに用意しただけなのです」
ロボゲーのレーザーブレードが好きだから似合うように作ったといっても伝わらないだろう、私が素手で出しても違和感が凄いのでやるときは武装少女的な形にした軽装の鎧を作った時にでもと・・・
「フィオナが実技でやったあの光の柱みたいなのもそのブレード・・・?ということですのね?」
「そういうことなのです、多分・・・」
自分でも何故なのかはまだわかってはいないのだがミリーが私の魔力の色が青紫だということで性質による属性放出だということで今は仮定している・・・
「わしも聡明な魔導師でシュタッドの名を轟かせたものだが・・・ミリア様やフィオナ君の言う魔力の『色』という概念自体が初耳だのう」
「様付けはお止め下さいまし、今はミリー・シュタッドと名乗っているのですから」
今回の呼び出しの件はどうやらジオについてとミリーの王族の話だったようだが・・・王族にバレてるとは思ってなかったがまさかミリーがその王家の人間だったことが一番の衝撃ともいえる、話し方がお嬢様なのも学院理事長の孫娘だと勝手に思いこんでいたからである。
ここまで聞くと情報を権力で覆い隠す現実を目の当たりにしているわけで・・・
どんな世界だろうとやはり権威が最大の力なのではないだろうか・・・魔力があるような世界でもそう感じてしまう私なのであった。
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