第7話 知らないことが山積みでした
約400年前、人族と魔族の大きな戦争が起こり・・・
「魔物がいるからもしかして・・・とは思ってたですが魔族もいるんですね~」
・・・魔王と勇者、古龍との戦いで起きた大事変・・・
「魔王に勇者!ということは聖剣や魔剣みたいなのも・・・ギルドランクにドラグーンとあったのもその古龍が関係してるです?」
・・・魔海の発生により周囲の魔物が狂暴化したことにより人族と魔族は冷戦状態にな・・・
「魔界?別世界とかではなく、この世界と直結しているのです?」
「ちょっと待ってフィオナ!よくそれで試験に臨めましたわね!?」
世界の歴史を説明している各箇所で呟いていたら、ミリー・シュタッドは痺れを切らして声を荒げた。
「ごめんなさいです・・・歴史は昔から苦手でしてぇ」
顔に信じられないと書いてあるであろう表情を見るに多分、この世界の常識なんだろうなと思ってはいるのだが・・・歴史の年号とか前世からまったく覚えきれる気がしなかった。
死んでも私の悪癖は直らないなと言い訳をしながら素直に謝ると、ミリーは仕方ないですわねと言いながら話を再開する。
「魔導術についてはどうですの?人族が使えるようになる経緯くらいの事なら・・・」
「分かりません・・・ごめんなさいです・・・」
「独自の魔導術を使えるのに何故・・・いえいいですわ、せめて入学前までに最低限はたたき込んで見せますわ!」
どうやらこの世界にも鬼がいるらしい、いやもちろん転生して10年間何もこの世界のことを調べなかった私が悪いのだけれど。
私以外の人が転生したら普通はその世界の事を調べようとするだろう、残念ながら前世の世界の事ですら知らないことのほうが多かったのだ・・・調べれば調べるだけ周りと話がどんどん噛み合わなくなっていき、人である限り解り合うことなど不可能だと絶望したままこの世界に来た。
言い訳に過ぎないだろうがそれが現実、真実も嘘もそれを扱うのが人であるかぎり事実と虚言に大した差がないのだと・・・
「魔導術というのはそもそも人が魔力を扱えるように龍族が術式という手段を伝えた事が始まりであり・・・」
「術式って龍族が教えてくれたものだったんですね~ということは龍族も魔導術を使うには術式が必要なんです?」
「フィオナ、今それを説明してるのですから少しお黙りなさい・・・」
人の話は最後まで聞くというのは前世でも常識だったなと改めて反省する。
「術式というのは龍族が使う古代文字であり、その言葉を人が口にすると魔力誘導がされることから詠唱が生まれたのが魔導術の始まりですわ」
詠唱は普通に人の言葉でできてない?口を挟みたくなるのを堪える、それもこれから言われることなのだろう。
「徐々に魔力の流れがわかるようになった人族はその古代文字を連想し、魔力を放出するだけでも術式の構築が可能なのに気づき古代文字を書物に書き記した・・・現在では文字でなく模様の認識になっていることで言葉としての理解は薄まっていったのですわ」
あの魔法陣みたいなのは元々文字だったのか・・・言ってしまえば圧縮して伝わっているから模様を思い浮かべながら魔力を通すと、詠唱はその模様毎に連想記憶の要領で出すための暗示みたいなものという解釈でいいのだろう。
「なるほど~だから詠唱が一緒じゃないんですね、無詠唱もその模様を浮かべながら魔力を流せば構築されると・・・」
「そういうことですわ・・・お分かりいただけたようで何より・・・ですわ」
もう既にミリーがげんなりしている、私が読んだ本にはそこまで書かれてなかったのだからと言おうとすると・・・
「術式は魔力の属性変換と指向性を持たせる働きがあるのですわ、中心の模様が属性変換、その周りに広がっていくのは指向性の部分・・・規模を大きくすれば必然的に魔導陣も広がっていくのですわ」
「なる・・・属性を変換するにも術式が必要だったのです?」
私が空を飛ぶときの風は確かに魔力変換してるものだろうが別に術式などを通してはいない、どうもここらへんからこの世界の人達との魔力の認識に違いがでているようだ。
「それはそうですわ、例えばこの様に」
とミリーが手のひらから小さい術式・・・魔導陣と言われてる最初の中心の部分みたいだが、そこからぼっと火が発生する。
「おおーこの最初の部分だけでも魔導術って発動できるのですね・・・じゃあこれで風を発動すれば飛べるんじゃないです?」
これが出来るなら別に私に飛び方を教わる必要ないのではと思ったのだが、杖の先から風に変換すればいいだけなのだから・・・
「指向性を持たせると大きくなるといいましたわ、フィオナが飛んでるとき、術式をどうすれば見えない状態で展開してるのかが分からないのですわ」
「直接変換するだけだと思うのですが、こうやって・・・」
と魔力を指に意識し火をイメージしてさっきのミリーのように出すと・・・
「・・・え、人族は魔力の現象化をするのに術式なしでは使えないはず・・・これではまるで・・・」
「そう・・・だったのです?魔力があるならそのまま使えばいいと思ってたのですが・・・」
ミリーの纏っている魔力の『色』は瞳と同じエメラルドグリーン、これがその人が持つ特有の属性の色と仮定すれば・・・サンダーストームの時に雷系の術式は唱えてたが、風系の方は無詠唱でできた理由に説明がつく。
「フィオナ、あなたは本当に人族なんですの?」
違う方向に話が転がっていってたのであった。
とうとう人としても疑われてしまったとき、部屋の扉をこんこんと鳴った。
「飲み物もお出しせず出掛けちゃってごめなさいねぇ、これもどうぞ召し上がってくださいね」
母のマリナが飲み物とお菓子を持ってきてくれたようだ、ちょうどいいのでさっきの種族問題を聞いてみることにした。
「母様、私は人族ですよね?」
「え、どうしたの突然・・・そうねえ、お婆様は帝国の龍人貴族ではあるけれど」
フィオナは角も尻尾もないでしょとマリナはくすくすと笑いながら部屋から出て行った・・・杖の時に援助してくれたという話だったが、まさか貴族な上に龍人とは。
「・・・ちなみに龍人と龍族はどういう違いなのです?」
「上位の龍族は人の姿になれるのですわ・・・そうじゃなく!親族に龍人の貴族がいらっしゃることに驚くところですわ!」
今までの話から推測すると術式は人が魔力を使えるようにする為に龍族が与えたもの、でも龍族がそれを使うとは言ってない・・・龍族は魔力を直接扱えるといったとこだろう。
私の体に龍族の血が混じっているからと思いそうになるが多分そうではないだろう。
この世界の魔力は2つ、内気魔力と外気魔力があるが、上級魔導術からこの外気魔力を一定量補完して使用者の魔力の負担を軽減させる・・・代わりに術式展開時の魔導陣は大きく広がってしまう。
私が主に調べていたのは魔力の性質についてのみだったので正直、術式のあの模様を覚えるのが辛すぎて直接変換できないかと模索して今に至るのだが・・・
「ミリーは魔力に『色』があることは知ってるですよね?」
今まで気になっていたこの世界の人の魔力に関しての認識について、実は認識してるだけで理解はしていないという私の推測はミリーの言葉で確信に至る。
「色・・・というのは、赤とか青とかの色という意味ですの?」
「ミリーの魔力の色は綺麗な緑色をしてるのですよ、だから得意な属性はおそらく風だと思うのです」
魔力の流れを認識するのと魔力の概念を理解する事が影響してると私は考えた、最初に魔導術だと思って出したときはこの魔力を深く意識して『色』が見えた直後だった。
流れてるのを感じるから魔力の存在そのものに意識を集中してみた、ただそれだけの事だが・・・この世界の人達にとってそれは空気と同じ。
前世の世界で例えると風邪を引くのは免疫力が下がるからといって免疫がどう機能してるのかをこの目で直接見れるかといった感じだ。
人は当たり前にあるものをいちいち意識しないし疑わない・・・電波が飛び交ってようと電波は目に見えないし、音が認識できるからといって周波数が見えるわけでもない。
「魔力の概念そのものを深く意識する、多分ミリーなら視えると思うのです」
「概念・・・魔力を視る?」
目を閉じて深い呼吸とともに静かに意識を自身に向ける、前世ですらその単純な動作すら意識しないとできなくなっている。
丹田呼吸や腹式呼吸、口呼吸も鼻呼吸すら生活に追われていると意識から簡単に外れる・・・人は自身が思ってるより集中しきれてはいない、この世界の人達の魔力の認識も同じである。
「理解・・・できましたわ、これがフィオナが視てた世界でしたのね」
魔力の『色』はその人の持つ性質であり、一言で済ますなら得意属性・・・魔導術もこれにより発動のしやすさが変わってくるのだろう。
ミリーが理解したことで分かったことは、得意属性なら術式を通さなくても直接変換できること・・・なのだが私の方がこの世界の仕組みを理解はしてなかった。
魔力が属性として放出されてるのであって性質が変わっているのではないのだと、コップの水を流せば中身が無くなる・・・風属性を持つ魔力が他の属性になったわけではない。
コップに入った水が砂になったりはしないのだ。
「凄い発見ですわ・・・でもフィオナのやってたことがさらに分からなくなりましたわ」
私の魔力はミリーの目からは青紫に見えるらしくこれだとそもそも風に変換してる理由にならないとのことだった・・・ミリーは自分の魔力の色も見えるらしい。
「まあ、ミリーが飛べる方法が見つかったということで・・・靴に触媒結晶で増幅してから放出すればいけるですよ」
謎が解けたと思ったらまた別の謎が増えてしまった、自分の魔力の色は他の人はわかるということ、意識したからといって魔力の性質が変わるわけではないこと。
私は改めてこの世界の事を勉強し直そうと心に決めるのであった・・・
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