二十二日目
「抱きしめてほしいです、高田くんに。」
呆れているような表情が、目の前にある。
「好意の告白は?」
まあ、それはね。
「してないです。」
その笑いが失笑であることは、わかる。
「面白い。好きって伝えるのは怖いくせに、そういうことは一丁前にしたいんだね。」
そりゃ、私だって女の子ですから。
「まあ、わかったよ。少し強引だけど、とても興味深い案がある。」
そう言うと、水性ペンで腕をなぞった。
「どういう案なの?」
橋川さんの行動に示し合わせたかのように、高田くんと戸田さんが教室に入ってきた。
「高田、お前!」
なんのつもりなのか、橋川さんが高田くんに叫んだ。
「身体、細すぎなんだよ。私も女の子やから、羨ましいんだよ!」
高田くんは、眉間に皺を寄せている。
「ちょっと愛月さん、高田くんの身体を腕で覆ってきて。」
いや、抱きつきたいとは言ったけど。
そんな急展開は、心の準備が。
「橋川さん、待って。好きでもない人に抱きつかせるのは、あんまり良くないんじゃないかな?」
そりゃ、そんな反応になるわ。
「友達同士のハグもあるじゃん。むしろ断る方がよくないと思うよ!」
友達同士でも、男女はあんまりやらないものじゃないかな。
そんな言葉は、飲んだ。
「ほら、戸田がやればいいんじゃないかな。戸田が、俺と橋川さんに抱きつく。どう?」
というか、怖い人に抱きつかれるだけでも怖いのかな。
それとも、俺なんかの体に抱きつかせるなんて。とでも思ってるのかな。
今すぐにでも、抱きつきたいっての。
なんか我慢するのも、面倒になってきた。
「私は別にいいですから。橋川さんの身体は既に測ってるので、私が計測した方が早いです。」
私の体は、いつの間にか。高田くんに吸いついていた。
いつもではありえない、密着。
高田くんの服から、柔軟剤の落ち着く香り。
高田くんと触れているところが、私の体じゃないみたいに落ち着かない。
大半は私の心拍音だが、高田くんの心拍音も聞こえてくる。
もしかして、この音。聞かれているかな。
それだったら、恥ずかしい。
でも、一生。こんな時間が続けばいいな、なんて思う。
私が思ってたより、私は高田くんのことが好きなんだな。
「おーい、愛月さん。終わったよ。」
ちょっと揶揄っているかのような、橋川さんの顔が印象的でした。
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