L1L
嗚呼烏
告白
「はぁ? 山川に振られた……?」
衝撃の事実を伝えられて、素早く椅子から立ち上がった。
「あんまでっかい声出すな。空しくなるじゃねえか。あと音割れするし。」
大きい声にもなるはず。高村健人と山川林は学校で一番有名な美男美女の恋人。暇さえあれば話しているような仲の良さである。
「単刀直入に聞くけど、なんで振られたの?」
答えたくないと言わんばかりの沈黙に、息を飲む。
「分からない。でもすごく怒ってた。わざわざ直接会って振られたし。」
僕の好きな人である山川を怒らせたのは、僕からしてもいい話ではない。
「なんか怒らせるようなことしたの?」
座って、床に落ちたひざ掛けを膝にかけ直す。
「してないと思う。というか、失恋して辛いんだよ。話題変えようぜ。」
破局に至った経緯が気になるが、確かに高村に悪い。
「そういえば。政府が俺らに一度だけ使える能力をくれるからどんな能力がいいか考えとけってやつ、連は何にした?」
携帯電話を勉強机に置くと、立てかけられている自由帳に手を伸ばした。
「僕は悩んだけど、心を読める能力にしよっかなって思ってる。そっちは?」
電話越しにページをめくる音が聞こえる。
「俺は……」
その時、高村の声がインターホンの音によってかき消された。
「ごめん。僕いってくるね。電話切るよ。」
高村の声を聞いてから、僕は電話を切った。
「今日は誰も来ないはずだが、誰だ?」
すぐ一階に降りた。そして、リビングにあるインターホンの画面を目にする。
「はい。……山川さん?」
彼女はとても明るい笑顔をしている。
「そうだよ。お邪魔していい?」
なぜ僕の家に。噂をすればってやつかな。そう思いながら、彼女を家にあげた。
「お邪魔するね。」
微かな香水の匂いを感じる。
「きれいな玄関だね。なんか素敵。」
彼女は、散らかっている玄関で自分の靴を綺麗に並べる。
「そうだ、これ。帰ってきたら、連くんのご両親に渡しといて。」
渡された紙袋には、いかにも上等の和菓子が入っているであろう箱が入っている。
「いやいや! 貰えないよ……」
僕が優しく押し返す素振りをすると、彼女は首を横に振った。
「じゃあ、お言葉に甘えて。……というか、僕の親が今は居ないことをなんで知ってるの?」
彼女は苦笑いしているように見える。この質問はなにかいけなかったかな。
「……高村に一回、連くんの両親が家にいない日時を聞かされたから。」
途端に申し訳ない気持ちになった。それにしても、高村とそんな変な話になったことあったかな。
「……ごめんね。」
気まずい状況も合わさって、そんな言葉しか出せなかった。
「もしかして、知ってる? 私と高村が別れたってこと。」
彼女は悲しそうな顔ひとつ浮かべていなかった。なのに、なぜか焦りを感じる。
「実はたった今、高村から聞いちゃって。」
平静を装ってはいるが、手汗で手が気持ち悪い。
「じゃあ話が早いかも。」
立ち話でもいいような話か。高村の文句でも聞いてほしいのかな。
「連くん。もしよろしければ、私と付き合ってください。」
和菓子の入っている袋が手から落ち、音を立てた。
「ごめん。もう一回、言ってくれる?」
彼女は驚きすぎだと言わんばかりに微笑している。
「付き合ってほしいって言ったの。」
どうやら僕の聞き間違いではないらしい。
彼女は高村と別れたばかりにこういっている。整理すると、僕と付き合うために別れたということにならないだろうか。
心臓の爆音が届かないか、心配だ。
「男をとっかえひっかえしてるつもりなんて微塵もないの。本当にあなたと付き合いたい。」
時間が経つと、彼女の声色は変化した。こちらをまっすぐ見る瞳からは、強い意志を感じる。
「……さっき目薬を点眼したからかな。」
鼻をすすり、目を優しく撫でる彼女。嘘偽りなんてない純粋な気持ちをぶつけてくれてるに決まっている。いい加減、僕も気持ちをぶつけないと。
「付き合ってほしいって言ってくれて嬉しい。恋人関係になりましょう。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます