第53話 飼い主、寝不足です ※一部マービン視点

「ココロ大丈夫か?」


「うん……だいじょうぶ」


『俺も散歩しなくても良いぞ?』

『僕も良いよ?』

『今はしっかり寝なさい』


 ここ最近ケルベロスゥと散歩に行くことが減った。


 あれから目を瞑ると前の家族を思い出してしまう。


 そのせいかあまり寝られなくなってきた。


 マービンやケルベロスゥといる時は安心して寝られるけど、一人になると全く寝られない。


 昨日も頑張って一人で寝ようとしたが怖くて、結局はみんなで寝ている。


「俺を頼ればいいからな? お前のちち……父親だしな」


『俺もいるぞ!』

『僕はもふもふだしね』

『毛並みは最高級!』


「うん」


 家族の言葉が今では僕にとっての救いになった。


 でも、僕はもう赤ちゃんじゃないから一人で寝られるようになりたいんだ。


 それに王都に行く時は野営する可能性がないわけではない。


 その時はマービンが見張りをするから、一人で寝ないと迷惑をかけてしまう。


 だって今日から王都に向かうことになっているもん。


 僕はマービンに抱きかかえられて、シュバルツの上に跨る。


「俺にもたれるといいぞ」


 僕はマービンに背中を預けると、次第に眠たくなってきた。


「パパってあったかいね」


 僕は視線を上げると、優しい顔で微笑んでいた。


 シュバルツも僕が寝やすいように、一定のリズムで痛くないように走ってくれる。


 みんなに助けられているのに、僕は何もできなくてダメだね。


 でも、そんなことを言うとみんなに怒られちゃうから何も言わない。


 ポロッとシュバルツに相談したら、髪の毛を食べられてしまった。


 言葉が通じなくても、シュバルツも話せるし理解しているってケルベロスゥが言ってたのを忘れていたな。


 少しの間、休ませてもらおうかな。


 気づいた頃にはそのまま眠りに落ちていく。



 ♢


「なぁ、ケルベロスゥ」


『なんだ?』

『なにー?』

『なにかあったかしら?』


 俺は隣で走っているケルベロスゥに、少し前から気になっていることを聞くことにした。


「ひょっとしてお前達って人の記憶を覗けるのか?」


『ギクッ!?』

『そそそ、そんなことないわよ!』

『ちゃんと走ってよ!』


「ははは、さすがに認めているようなもんだろ」


 急に俺が聞いたから、ケルベロスゥは足をジタバタとしていた。


 うまく走れないんだろうね。


『兄さんと姉さんって態度が変わっちゃうもんね』


『俺はいつも一緒だ!』

『ケルと同じにしないでよね!』


 相変わらずケルとスゥは歪みあっている。


 俺がケルベロスゥに聞いたのは、一緒に寝るようになってから異変が起きたからだ。


 なぜかココロとケルベロスゥは俺の過去を知っていた。


 さすがに肩が痛かった日もあったから、一緒にいてバレたと思っている。


 でもたまにココロとケルベロスゥが話しているのを耳を澄ますと、王都に行ったら俺の妻と息子に挨拶をしようかって聞こえた。


 俺は結婚していることを伝えてもいない。


 それに俺の妻と息子はすでに亡くなっている。


 冒険者ギルドのギルドマスターは、俺が騎士だったことは知っているが家族の話はしたことがなかった。


 少し疑問に思っていたことだが、最近はそれが確信に変わってきた。


「それってどこまで覗けるんだ? そもそもなぜ俺まで見えているんだ?」


 心地良さそうに寝ているココロを見る。


 ここ最近、俺はココロの記憶を覗いている。


 見たこともないココロの元家族達の顔をはっきりと覚えているくらいだ。


 毎日同じ夢を見ていれば、自然と覚えるのは仕方ない。


『やっぱりパパさんにも見えているんだね』

『なっ!? お前言っていいのか?』

『私達の秘密じゃないの!』


 やっぱりあの夢はケルベロスゥが関わっていた。


 俺はここ最近ココロが、俺と同じくらいの男や子ども達に不快な言葉を浴びせられていた。


 それを俺は止めることもできなかった。


 ただただ、見ていることしかできない。


 できるのは起きてから、ココロをたくさん褒めて、優しくしてあげることくらいだ。


 過去は変わらないからな。


『俺達もなぜパパさんが見えているのかはわからない。でも、前にココロと一緒にパパさんの記憶は覗いたぜ!』

『色々と大変だったわね』


 ケルとスゥはあまり考えずに話しているが、普通に考えたらすごいことだ。


 きっと謎が多いミツクビウルフならそれぐらいは当たり前にできることなんだろう。


「そうか……。まぁ、ココロを守ってやれるのも俺たちしかいないからな」


『あったりめーよ!』

『僕がココロを守るから大丈夫!』

『今頃そんなことを言うのかしら?』


 本当に頼れる番犬達だ。


 この先ココロが元気になるには、家族の支えが必要だ。


 まだ5歳になったばかりの赤ちゃんみたいなものだ。


 そんなココロの守る騎士と番犬に俺達はなりたいと、自然に思うようになった。


『ヒヒーン!』


 シュバルツも忘れちゃいけないな。


 俺達は家族だからな。


 しばらくはゆっくり休めよ。


 俺達は王都に向かって、さらに足を速めた。

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