第52話 飼い主、やっぱり怖い

「それでこれはどこで買ったんだ?」


「えーっと、へんたいからだよ?」


「変態?」


 マービンはケルベロスゥをジーッと見つめる。


 少しずつ詰め寄っていくと、ケルベロスゥはその場から逃げていこうとするが捕まっていた。


「ひょっとしてお前達迷子になっただろ!」


『しっ……しらないぞ!』

『そうです……』

『私は散歩していただけよ!』


 ケルとスゥはベロを睨みつける。


 ベロは真面目な性格だから嘘はつけないもんね。


「はぁー、これからはみんなで散歩だぞ! 絶対俺がいない時に行くなよ!」


「はーい!」

『はーい!』


 ケルとスゥは不服そうだが、迷子になって危ない目に遭うよりは良いもんね。


 それにマービンもどこか嬉しそうだった。


 やっぱり一緒に散歩に行きたかったのかな?


「それでその変態ってやつはなんだ?」


「んーっと、まっくらなところからきゅうにでてきて」


「ケルベロスゥは気づいていたか?」


『俺は……別に怖くなかったぞ!』

「知らない間にいたよ?」

『あれは本当の変態よ!』


 うん、ケルベロスゥも思い出したのか怖くなって尻尾が垂れ下がっている。


「なら本当に魔女かもしれないな?」


「へっ?」


「この腕輪についている黒い石は魔石だ」


「ませき?」


「ああ、魔物から採れるやつだが、中々アクセサリーにするには難しいからな」


 魔石は魔物から採れるもので、高く売れるらしい。


 基本的に高価な魔石じゃないと、細工をする段階で粉々になってしまう。


 魔女ならそういうこともできるんじゃないかと、マービンは言っていた。


「ただ、黒魔石は闇属性と言われて使い勝手かあまりないからな」


 あまり使い勝手が良くないからたくさん買えたのかな。


 他の色のやつはとても高かったもんね。


 でも僕達は使う気もないから問題ない。


 みんなでお揃いのものを持てるだけで十分だ。


 ♢


「今日も一緒に寝るか?」


 部屋に戻ろうとしたらマービンが声をかけてきた。


 今までそんなことを言われたことないのに、何かあったのだろうか?


「へんたいがこわいの?」


『俺は怖くないからな!』

『僕も大丈夫だもん!』

『私は淑女よ? 一人で大丈夫……かしらね?』


 怖いのはケルベロスゥなんだろう。


 僕もケルベロスゥが一緒に寝ていたら大丈夫な気がする。


「そうか……。まぁ、しっかり休めよ」


 少しマービンの背中が残念そうに見えたが気のせいかな?


 僕達も部屋に戻るとベッドの中に入る。


「ケルベロスゥもはいる?」


 普段より落ち着きがないケルベロスゥをベッドの中に誘う。


 やっぱり怖かったのか、呼んだら嬉しそうに飛んできた。


 僕ももふもふしているケルベロスゥとなら寝付ける気がした。



 気づいたら僕は家に帰っていた。


 いつも見ていた風景に少し笑顔が溢れてくる。


 やっと帰ってきたのか?


「パパ! ママ!」


 僕が振り返るとそこには家族がいた。


 僕が大好きだった・・・パパとママ。


 優しかった兄と姉。


 でもなんでそんな顔をしているの?


 みんなが僕を囲んで睨んでいる。


「悪魔はこの家から出ていけ!」

「私は呪われたくない!」


 兄と姉が僕をいじめてくる。


「パパ! ママ!」


 声をかけても反応がない。


「お前は俺の子どもじゃない! 災いを呼ぶ悪魔なんか死んでしまえ!」


 パパが僕をいじめてくる。


 みんな僕のことが嫌いなの?


 ママは僕のことを見たくないのか、ずっと下を見ている。


 僕は生きていちゃいけないの?


 段々と息がしにくくなって苦しくなる。


「はぁ!?」


 僕はあまりの息苦しさに目を覚ました。


『大丈夫か?』

『ココロは悪くないよ?』

『ほらこっちに来なさい』


 近くにいたケルベロスゥをギュッと抱きしめる。


 ケルベロスゥは何も話さなくても、なぜか僕のことを知ってくれている。


 優しいケルベロスゥに僕は安心して目を瞑る。


 だけど真っ暗になると、また何か言われているような気がする。


 だんだんと不安が強くなってくると、気づいた時には僕はマービンの部屋に来ていた。


「ん? ココロか?」


「ねれないの」


 そんな僕にマービンは優しく微笑みかける。


 ベッドをトントンして隙間を開けてくれた。


 僕はゆっくりとそこに入る。


『パパさんだけずるい』

『僕も一緒に寝る』

『むしろパパさんはあっち!』


 僕に続いてケルベロスゥもマービンの部屋に入ってきた。


「仕方ないな」


 やっぱり僕達は一緒に寝た方が良かったんだね。


 小さなベッドで僕達家族はギューギューして再び眠りについた。

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