第34話 飼い主、おででさんは強い!?

 僕は男達に見つかっちゃった。


『ココロに触れるな!』

『ココロをいじめるな!』

『変態男が!』


 すぐにケルベロスゥが男にぶつかり、よろけた瞬間におててさんが僕を引っ張った。


「おー!」


 なぜか周囲にいる大人達は手を叩いて拍手をしていた。


「ケルベロスゥだいじょうぶ?」


 男にぶつかった影響で、ケルベロスゥもジュースが体についちゃったね。


『あまっ!?』

『これは毒だよ!』

『おこちゃまにはわからないのね』


 ペロッと舐めたらみんな違う反応をしていた。


 男の子のケルとベロは甘い果実が苦手なのかな。


 スゥは美味しいのかペロペロとしている。


 次第に僕の顔まで舐めていた。


「スゥくすぐったいよ」


『ムッ! 姉さんばかりズルい!』

『俺もココロと遊ぶぞ!』


 スゥに負けじとケルとベロまで舐めてきた。


 もう顔にジュースは付いていないのに、ずっと舐めてくる。


「そうか……。俺達のことを追い出したのはお前達だな」


 男はゆっくりと僕達に近づいてきた。


 その手には剣を持っていた。


「あぶない!」


 僕はケルベロスゥを守るために前に出た。


「おぉー!」


 周囲はまた拍手をしていた。


 なんで周囲は落ち着いているのかな?


 誰か助けてくれると思ったけど、やっぱり僕達には関わりたくないようだ。


『ココロは下がってろ!』

『怪我したら危ないからね!』

『タマを食いちぎるわよ!』


「ヒィー!」


 スゥの言葉に男の大人達は股を押さえていた。


 タマって股のことを言うんだね。


 僕は近所にいた猫のタマしか知らなかった。


「どいつもこいつもうるさいぞ!」


 男は僕達に向かって剣を振り下ろした。


「おててさん!」


 僕は今日三回目のお願いをおててさんにした。


 これで今日はお願いごとができないね。


 でも、おててさんはすぐに理解して、男の足をしっかり掴んだ。


「えっ……?」


 男はそのまま振り下ろした剣の制御ができないようだ。


 しかし、僕達の目の前で剣が落ちてくるのは変わらない。


――バチン!


 大きな音とともにおででさんが男を押し出した。


 おででさんの力は思ったよりも強いようだ。


「おっー!」


 再び周囲は拍手に包まれていた。


 そうやってうるさくするから、怒られちゃうんだよ。


「もう、うるさいからおこられたよ!」


 僕は周囲の大人達に怒ると、なぜかニヤニヤと笑っている。


 なんで見てるだけなんだろう。


 僕はプンプンして足をジタバタさせる。


『おっ、何かのダンスか?』

『ダンスには淑女が必要ね!』


 僕が遊んでいると思ったのか、ケルベロスゥも一緒になってジャンプしている。


 もう意味がわからないよ。


「おい、ここは逃げるぞ」


「ああ」


 僕が困惑していると、男達はおででさんに飛ばされた男を抱えて外に逃げていった。


 その場で立ち尽くしていると、急いでマービンと鎧のおじさんが帰ってきた。


 その後ろにはジュースをくれる予定のお姉さんがいる。


「ココロ大丈夫か!?」


 マービンは僕をすぐに抱きしめて、怪我がないか確認する。


 服をチラッと捲り大きなため息を吐いた。


「はぁー、ジュースでよかった」


 座り込むその姿を見て、心配して急いで来てくれたことがわかった。


 ひょっとして周りの大人達がニヤニヤするのはこんな気持ちだったのかな。


 どこか心がポカポカとする。


「あなた達も笑っていないで助けなさいよ!」


 お姉さんはそんな大人達に怒っていた。


 やっぱりわざと助けなかったんだね。


「紅蓮の冒険団を追い払ったのか?」


「んー、いつのまにかいなかったよ」


『俺がココロを守ったんだ!』

『僕が守ったんだよ?』

『私もちゃんとタマを噛んだわよ?』

『えっ? 姉さんいつやったの?』

『おででさんが叩く瞬間よ?』

『ヒイイィィィ!』


 ケルベロスゥは褒めてもらいたいのか、マービンと僕のところにちょこんと座った。


「ケルベロスゥ、おててさん、おででさんありがとう」


 僕は助けてくれた友達にお礼を伝える。


 ちゃんと言葉にすることは大事だって勉強したばかりだもんね。


「さすがだな!」


 マービンにも褒められてケルベロスゥは嬉しそうだ。


「服も汚れたから俺達も帰ろうか」


「そうだね……」


 せっかくジュースをもらえると思ったけど、飲み損ねちゃったな。


 また今度冒険者ギルドに行った時にもらおうかな。


「またジュースちょうだいね!」


 僕がお姉さんに手を振ると、大人達みんなが手を振ってくれた。

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