第30話 飼い主、冒険者ギルドに行く
「これから冒険者ギルドに行くけど、ココロ達も行くか?」
マービンは冒険者ギルドに用があるらしい。
宿屋にいても特にやることはなさそうだし、昨日ケルベロスゥが襲われていたのを見ると、ここにいる方が怖い気がする。
「ケルベロスゥはいく?」
『俺はココロが行くならついていくぞ』
『僕も!』
『私に付いてきてって言いなさいよ!』
ケルベロスゥは尻尾をブンブン振りながら、こっちを見つめている。
きっと一緒に行きたいのかな?
「いっしょにきてくれる?」
『仕方ないなー』
『ココロと一緒だね!』
『私がいないと寂しいんだね』
僕がそう伝えると、ケルベロスゥの尻尾はさらにブンブンと振っていた。
ピュンっと尻尾が飛んでいきそうな勢いだ。
「ぼくたちもいきます!」
「それならシュバルツも連れて行こうか」
マービンもシュバルツのことが大好きなんだね。
僕もケルベロスゥとは離れたくないもん。
僕達は馬小屋に向かい、シュバルツを連れて冒険者ギルドってところに向かうことにした。
『ココロは離れるなよ!』
『僕がいるからね』
『いざとなったら、私がタマを食いちぎるからいいわよ!』
僕の番犬は冒険者ギルドに入る前に警戒を強めた。
冒険者ギルドは町の中央にある。
大きな建物だから、どこにあるのかはわかりやすい。
僕はマービンに付いて冒険者ギルドの中に入っていく。
ちなみにシュバルツは体が大きいため、冒険者ギルドの入り口で待っている。
どこか僕達に視線が集まっているような気がする。
やっぱり悪魔のような見た目をしているからかな。
『おい、お前らココロをいじめるんじゃねー!』
『ココロ大丈夫だよ』
『その汚いタマを食いちぎろうか!』
ケルベロスゥは僕にべったりくっついて、中にいる大人達に唸る。
「ははは、しっかりした番犬だな」
声をかけてきたのは昨日いた鎧を着たおじさんだ。
「お前達、そんなに気になるならジロジロ見ずに声をかけろよ!」
おじさんの声に反応して、大人達が集まってきた。
「君のミツクビウルフを見せてもらってもいいかな?」
「ケルベロスゥ?」
「ああ、ケルベロスゥって言うのか!」
大人達はケルベロスゥを囲んでジロジロと見ていた。
『なっ……お前らなんだ!?』
『ココロ……助けてよおおおお!』
『あんたら何よ! みんなして私に魅了されたわけ?』
ケルベロスゥは戸惑っているようだ。
森にずっといたから、あまり人に囲まれることがなかったもんね。
『私とお話しがしたいのかしら?』
「おおお、やっぱり話してるぞ!」
『そりゃー、口があったら話せるわよ。タマが付いてたら男なのと同じよ!』
こういう時のスゥは頼りになるのか、ケルやベロとは違い、積極的に男達と話していた。
ただ、男達もスゥが何を言っているのかわからないのか、顔を見合わせていた。
「それでマービンと一緒にきたのは、ビッグベアーの討伐報酬のことかな?」
「ほうしゅう?」
「ああ、あの魔獣はとても強い魔物だから、倒しただけでお金になるんだよ」
それを聞いて僕はびっくりした。
まさかビッグベアーがお金になるなんて知らなかった。
ひょっとしたらおててさんは知っていたのかな?
お礼を伝えようと周囲をキョロキョロしていたが、おててさんはいなかった。
「ただ、まだ報酬の準備ができていないからまた今度来てもらうことになるかな」
鎧のおじさんは申し訳なさそうに頭を下げていた。
強そうな見た目をしているのに、とても穏やかで優しそうな人だね。
「まあ、ここにきたのはそれだけじゃないけどな」
「ああ、昨日言っていた話だったな」
優しそうな鎧のおじさんは、一瞬にして表情を変えた。
マービンと鎧のおじさんはどこか眉間にシワを寄せて、怖そうな顔をしている。
何か悪いことがあったのかな?
僕はジーッと眺めていると、背中に衝撃を感じた。
『俺に触って良いのはココロだけだ!』
『ココロオオオォォォ!』
『良い男を紹介してくれるなら良いけど、今回はココロの子守りなのよ。デートの誘いはまた今度してちょうだい!』
ケルベロスゥが僕にべったりとくっついて、尻尾を絡ませてきた。
「ああ、もふもふしたかったな……」
男はケルベロスゥに向けて手を伸ばしていた。
触りたかったのに、ケルベロスゥが逃げてきたのかな?
「お前らも気安く触ろうとするな。テイマーを守る魔獣なんだぞ」
『俺はココロを守る戦士だ!』
『僕はココロの番犬だ!』
『私は犬界の淑女よ!』
やっぱりみんな言っていることが違うね。
みんな性格が違っても、僕の友達なのは変わらない。
僕は優しくケルベロスゥの頭を撫でる。
「ははは、頼もしい番犬がいてよかったな。そんな主人と番犬に話があるんだけど、ちょっと良いかな?」
「はなし?」
「ああ、マービンも付いてきてくれるから大丈夫だぞ」
ケルベロスゥとマービンもいるから大丈夫かな?
僕は案内されるがまま鎧を着たおじさんについていくことにした。
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