第29話 飼い主、お肉を食べる

「ほら、お肉が焼けたよ!」


 僕達はお皿に出されたお肉を見て、目を輝かせていた。


 ケルベロスゥはいつも野ネズミをそのまま食べていたと聞いている。


 焼いても食べられるのかな?


『ココロ!』

『食べちゃだめ?』

『はやくしなさいよ!』


 どうやら焼いたやつも食べられるようだ。


 尻尾をブンブンして、今か今かと待っている。


 顔に尻尾が当たって邪魔だな。


「よし! 食べ――」


 早速食べようかと思った時にはケルベロスゥは食べていた。


『兄さん、それ僕の!』

『ここにあったのは俺のだ! それよりもスゥ食べ過ぎだ!』

『淑女は体力を使うのよ!』


 よほど美味しいのか三匹で取り合いになっている。


 今度食べるときは、お皿を分けてもらわないと喧嘩になっちゃいそうだ。


 次第にお互い唸り声をあげて、必死に取られないようにしている。


 真ん中にいるベロは兄と姉に挟まれているから大変そう。


 僕もフォークを手に取り、食べようとしたらなぜかおててさんに止められた。


「たべちゃだめなの?」


 おててさんの行動に戸惑っていると、おててさんとおででさんはお互いに手を合わせていた。


 何かのお祈りかな?


 僕がマネをするとおててさんはパッと手を離す。


 どうやらお祈りをしてから食べるようにって意味だった。


 切り分けてあるお肉を一口入れる。


「おいしい……」


 あまりのおいしさに言葉が溢れ出てくる。


 ずっとご飯を食べていなかったのもあるけど、こんなお肉食べたことがない。


 それに食べている時だけは、嫌だったことも忘れられるような気がする。


「急いで食べると喉に引っかかって死んじゃうよ?」


 宿屋の女性がボソッと呟いた声が聞こえてきた。


 僕とケルベロスゥはチラッと女性を見ると笑っている。


『あの顔は嘘はついてないぞ』

『兄さんと姉さんが急いで食べるからダメなんだよ!』

『淑女の私がなんてはしたないことを……』


 ケルベロスゥは取り合うことなく、ゆっくりと食べ出した。


 それを見習って僕もゆっくり食べる。


 焼いたお肉はそこまで脂ぽさはなく、さっぱりして食べやすい。


『なぁ、ココロ?』


「なに?」


『俺の野菜と交換しないか?』


 ケルはお皿に野菜が乗っているところを僕に近づけてきた。


『あら、それは良い考えね』


 スゥも野菜とお肉を交換して欲しいようだ。


「おにくたべる?」


 僕の言葉にケルとスゥは大きく頷いている。


 頭を振りすぎて繋がっている体が倒れそうなほどだ。


『兄さん! 姉さん!』


 そんな中、真ん中にいるベロは怒っていた。


『ココロも甘やかさないの!』


 そう言って野菜をペロリと食べた。


『おまっ!?』

『なんてことをするのよ!』


『これでココロは交換しなくて良いもんね』


 ベロは褒めて欲しいのか頭を突き出してきた。


 僕のお肉が取られないようにしてくれたのだろう。


「ベロはやさしいね!」


 優しいベロの頭を撫でると、再び喧嘩が始まった。


『それぐらい俺だってできるぞ!』

『早く私の頭を撫でなさいよ!』


 ケルとスゥまで僕に頭を寄せてくる。


 ご飯を食べている途中なのに、僕は揉みくちゃにされていた。


「まだ食べて――」


 それを見ていたおててさんとおででさんが近づいてきた。


 そのままケルベロスゥをグイッと離すと、おててさんとおででさんは人差し指をあげて振っている。


 まるでケルベロスゥに怒っているようだ。


『俺は悪くないぞ!』

『私も悪くないわ!』


『『悪いのはベロだ!』』


『僕は何もしていないよ!』


 ケルとスゥが言い訳をしていると、おててさんはさらに指を振るのが早くなっていた。


 きっとさらに怒っているのかな?


 あの怒り方ってすごくママに似ているね。


 僕はその間にお肉を口に入れて食べていく。


 あれ……?


 そういえばママってあんな怒り方していたかな?


 ママが怒ったところなんて一度も見たことがなかったのに……。


 変な夢を見たから混乱しているのかな。


 その後も僕はお腹いっぱいになるまで、お肉をたくさん食べた。

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