第23話 飼い主、友達を守りたい

「ケルベロスゥになにするの!」


 僕は声をあげて馬小屋に近づく。


 体が小さいからか鎧の男達の隙間を通り抜けられた。


「えっ……」


 馬小屋の中を見て僕は驚いて声が出なかった。


 ケルベロスゥの体から血が溢れ出ていた。


 それにその隣にはシュバルツが倒れている。


 離れてから少ししか時間が経っていないのに何が起きたの?


 僕は混乱して何も考えられないでいた。


 すぐにケルベロスゥの隣に行き体に抱きつく。


 手にはべったりと血がついていた。


「なんだこのガキ?」


 一人の男がこっちに近づいてきた。


『ココロなんできた!』

『僕達は大丈夫だよ』

『気にしなくて良いのよ』


 僕を守ろうとケルベロスゥは僕を咥えて遠ざける。


「お前がこいつらの飼い主か? 急に襲ってきたから剣で斬りつけちまった」


「ああ、そこの馬も急に蹴ってきたからな」


「俺らも自分の身を守るのに精一杯だったぞ」


 男達はニヤニヤと笑いながら、ケルベロスゥを囲む。


 まだ出会って数日しか経っていないけど、ケルベロスゥが人を襲うことなんてない。


 マービンに会った時だって、唸って警戒するだけで悪いことはしていなかった。


 もちろんシュバルツもそんなことはしない。


 それにビッグベアーを倒したシュバルツが蹴ったら、いくら男の人でも多少怪我をするはず。


 傷ついているのはシュバルツとケルベロスゥだけ。


「うそつくな! ケルベロスゥはそんなことしないもん!」


 僕は再びケルベロスゥの前に出て、守るように手を広げる。


 男達の目はまるでパパと最後に会った時の目をしていた。


「そもそも俺らが襲われたのは、飼い主のしつけがちゃんとできていないからだろ?」


「ははは、そんな使えない君にミツクビウルフはもったいないな」


 この人達はなんでこんなひどいことをしているのだろう。


 まるでケルベロスゥを自分達のものにしようとしている気がする。


 それにケルベロスゥにしつけはいらない。


「ケルベロスゥはぼくのともだちだもん!」


『ココロ……』


 ケルベロスゥは僕にスリスリしてきた。


 今はそんなことをしている場合じゃない。


「こいつらが友達だって。笑えるな」


「最悪死体でも売れるから良いんじゃないか?」


「それもそうだな!」


 ニヤニヤと笑っているその顔が人間ではない何かに見えた。


 みんなは僕のことを悪魔というが、よっぽど彼らのほうが悪魔だ。


『ココロ逃げろ!』

『私達は大丈夫だから!』


「いやだ! ケルベロスゥはぼくがまもるもん!」


「ならお前も死ねばいい」


 男達は剣を大きく振りかぶった。


「おててさん!」


 僕の友達はケルベロスゥだけじゃない。


 声に反応しておててさんがひょこっと飛び出した。


 それもビッグベアーをつかんだ時の大きさだ。


「ななな、なんだこいつ?」


「邪魔だ!」


 男はおててさんに斬りつけるが、何事もなくおててさんはくっついていく。


 本当におててさんは何者なんだろうか。


 チラチラと手のひらをこっちに向けてくる


 これはお願いを待っているのかな?


「おててさん、あいつらをこらしてめて!」


 おててさんは親指を上げると、すぐに握り拳を作った。


 次の瞬間、そのまま男達に突撃する。


――バキッ!


 鈍い音が男達から聞こえてきた。


 そのまま転がるように馬小屋から男達が飛び出ていく。


 おててさんってこんなに強いんだね……。


 その合間に僕は大きく息を吸った。


「だれかたすけてえええええ!」


 こういう時は大人に助けを求めた方が良いだろう。


 それに僕も力が抜けて、その場で座り込んでしまった。


「どうしたんだ!?」


 声が聞こえたのか宿屋からマービンが出てきた。


「お前らは……紅蓮の冒険団がなぜここにいる!」


 マービンは男達を問い詰める。


 でも今はそれどころじゃない。


「シュバルツが!」


「シュバルツがどうした……おい!」


 マービンも急いで馬小屋に入ってきた。


 わずかに息をしているシュバルツ。


 このままじゃシュバルツが死んでしまう。


 僕はシュバルツに近づき手を添えた。


『ココロダメだ!』

『魔力がなくなるとココロが死んじゃう!』

『やめなさい!』


 ケルベロスゥは僕を必死に止めようとする。


 魔力がなくなると人は死んじゃうの?


 でもこのままだとシュバルツも死んじゃうの……。


 やっとできた僕の友達なのに……。


 僕も友達を守れる人になりたいよ。


「おててさんたすけて」


 小さな声で僕はつぶやく。


『相変わらず心は頼ってばかりなんだから』


 どこかで知らない女性の声が聞こえてきた。


 まるでママに頭を撫でられているような気がした。


 ただ、それと同時に僕の視界は真っ暗になった。


 視界の端ではおててさんがシュバルツにグチャグチャペッタンを始めた。

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