第21話 飼い主、身分証をもらう
「ほーれほれ!」
『なんだなんだ!』
『ちょっと姉さん!?』
『良い男には寄ってちゃうのよ……』
ケルベロスゥは門番のシモンに撫でられて困惑している。
体が一つになると大変なこともあるようだ。
「ココロ! 話は終わったぞ」
「ぼくもまちにはいれるんですか?」
「ん? 別に町には入れるぞ? 身分証は持っていないのか?」
「みぶんしょう?」
そういえば、スキルを授かる前に何か板のようなものをママがもらっていた。
あれが身分証だったのかな?
「あー、だから迷子になっているのか」
「どういうこと?」
「身分証にはどこに住んでいるのか書いてあるんだよ」
「へっ……」
僕はスキルを授かった後に、すぐに寝てしまった。
だからママから身分証をもらっていない。
そこに僕が住んでいた町が書いてあるのは聞いていなかった。
やっぱり僕は町に入れないのかな?
「ココロくんは今何歳なの?」
「5さい!」
手を広げてシモンに年齢を伝える。
隣ではおててさんも大きく黒い手を広げていた。
『ココロは5歳なんだな』
『しっかり者だね!』
『ベロが5歳の時はそこら中におしっこ――』
『姉さん!』
ベロは口を大きく開けて、スゥに嚙みつこうとしたが首の長さが足りないようだ。
「だいじょうぶ! ぼくもむかしはおしっこもらしてた!」
『ココロまで……』
僕も同じだったことを伝えたが、ベロはその場で項垂れていた。
「げんきだして?」
僕はベロをもふもふすると、嬉しそうに顔を擦りつけた。
『おいおい、俺もおしっこ漏らしていたぞ!』
『私なんてうんこ漏らしていたわよ!』
撫でてもらいたいのか、失敗したことをケルやスゥも話しだした。
「ココロくん達は毎回こんな感じなんですか?」
「今日会ったばかりだけど、ずっとこんな感じだったね」
そんな僕達を見て、マービンとシモンは笑っていた。
「とりあえずこれでココロの身分証を作ってくれ」
「わかりました」
マービンはシモンにお金を渡すと、シモンはどこかへ走っていく。
「ココロは何が食べたい?」
「ごはん!?」
『めしか!?』
『ごはん!?』
『まんま!?』
マービンの言葉に僕達は一斉に振り返る。
そういえばずっと何も食べてなかったな。
食事が食べられると聞いて、お腹がグゥグゥと鳴ってきた。
バタバタしていたから、お腹が空いていたのを忘れていた。
「ははは、お前達は本当に似たもの同士だな」
「へへへ」
僕とケルベロスゥは目を合わせてニコニコと微笑みかける。
まだ会って少ししか経っていないけど、ケルベロスゥとは昔から一緒にいる感じがする。
今ではお兄ちゃんやお姉ちゃんよりも大好きだ。
「なにをたべようね?」
『俺は肉!』
『僕は肉!』
『私は肉!』
どうやらケルベロスゥはお肉が好きなんだね。
そういえば、野ネズミをよく食べているって言ってたっけ?
「お待たせしました!」
何を食べるか話し合っていると、シモンが何かを持って走ってきた。
「ココロくん、これが臨時の身分証だよ」
「りんじ?」
「正式に言えば滞在証と言えば良いのかな? この町に入る時にはこの滞在証があれば良いけど、他の町では新しく発行しないといけないからね」
『他の町に行くにも身分証がないと町に入れないってこと?』
「だから臨時の身分証と言われている」
どうやら僕の身分証の代わりに、木の板をもらった。
これがあればこの町の行き来は可能になるらしい。
普段は犯罪を犯していないか、確認したりなどの工程が必要だが、子どもの僕は免除された。
「まずは宿屋にでも行ってみるか」
「やどや?」
「ああ、シュバルツとケルベロスゥは別になっちゃうけどね」
『はぁ!?』
『へっ!?』
『えー!?』
ケルベロスゥは僕をチラチラと見ている。
僕に離れたくないと言って欲しいのかな?
「魔物や動物は人間の宿屋には泊まれないからな」
「だって?」
『ワオオオオオン!』
『ココロオオオォォォ!』
『人でなしいいいい!』
ケルベロスゥは大きな声で遠吠えをしていた。
そんなに僕と離れたくないのかな?
それだけで僕の胸の奥がポカポカとしてきた。
僕もケルベロスゥとは離れたくないけど、一緒に泊まれないなら仕方ないね。
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