第20話 御者、謎の少年とミツクビウルフ ※マービン視点
俺はシュバルツを連れて冒険者ギルドに向かっていく。
「それで護衛を放棄した冒険者は誰だ?」
「紅蓮の冒険団だ」
「またあいつらか!」
どうやら紅蓮の冒険団は、冒険者ギルド内でも良い噂がないようだ。
ちゃんと乗り合い馬車として、冒険者を雇って戻ってきたらよかった。
町に戻る時に護衛費と運賃を引き換えに向こうから声をかけられて、あいつらを乗せたのがいけなかった。
数日滞在して町へ行く人達を募集してから帰ってくるべきだったな。
「俺の自業自得な部分もあるからな」
「それでもあいつらがやったことは、冒険者としての行動として良いものではない。無事でよかった」
「ビッグベアーと遭遇するとは俺も紅蓮の冒険団も思っていなかったからな」
「そもそもあいつらが勝てるはずない」
「だから囮にされたんだけどな」
あいつらは戦う振りをしてシュバルツに斬りつけた。
俺達だけでも逃げることができるからだ。
だから俺達を囮にしてあいつらは逃げ出した。
冒険者ギルドに所属していても、依頼でなければ放棄できるからな。
俺がしっかり考えて行動していなかったのが、今回の問題だな。
それだけ冒険者を雇うのにお金がかかるってことだ。
「でもどうやって助かったんだ?」
「ちょうどそのタイミングココロに出会って助けてもらったんだ」
シュバルツは俺を守るためにビッグベアーに立ち向かった。
俺にはもう戦う力がないからな……。
その間に俺は逃げた。
ただ、家族であり戦友のシュバルツを残してきたことを後悔していた。
こんな体で名誉だけあっても、現役から退いた俺だけが生きているのもな。
だから死を覚悟して、弔うつもりで戻ってきた。
ビッグベアーは獲物を食べる時に、すぐには食べずに残しておく習性がある。
だが、俺が戻った時にはどこからかグチャグチャする音が聞こえていた。
もう食べられているのかと思ったら、まさかココロのテイムしている謎のおててさんが治療していた。
あの時は色々驚いて変な声が出ちまった。
「あのビッグベアーを掴んでいた真っ黒な手が助けてくれたんだ。今じゃ真っ黒になったけど助かってよかったな」
『ヒヒーン!』
シュバルツを撫でると嬉しそうに鳴いていた。
「あんなに謎の魔物は見たことないな。これは見習い冒険者に勧誘しないといけないぞ」
きっとココロの年齢では冒険者として登録はできないだろう。
冒険者は成人とされる14歳から登録が可能だ。
それまでは見習い冒険者として、簡単な依頼を受けさせて囲う気だな。
「それができるかはわからないぞ。ココロは迷子だって言っていたからな」
「迷子?」
「俺もいまいちわからないが、本人は捨てられたって言ってたぞ」
「ひょっとして奴隷商に売られたってことか?」
「それもあるだろう」
「ならなぜあそこにいる?」
俺達が振り返るとココロはケルベロスゥと楽しそうに遊んでいた。
門番の男も近寄ろうとするが、唸られてビクビクしている。
「それは俺も謎だ。本人もちゃんと理解しているわけでもないからな」
「そうか……。だから、ビッグベアーの報酬をココロに渡そうとしているのか?」
「ははは、やっぱりバレちまったか」
「どこから見てもあの傷はシュバルツがやったようにしか見えないからな」
「まぁ、シュバルツが死んだあいつに怒っていたからな」
冒険者ギルドのギルドマスターが言うように、トドメをさしたのはシュバルツで間違いない。
ただ、シュバルツは普通の馬だ。
俺もケルベロスゥが何かしたと思っている。
さすがに馬に蹴られて、ビッグベアーが死ぬなんてありえないからな。
「とりあえず、ビッグベアーの処理は冒険者ギルドがやっておく。報酬は全額ココロに渡して問題ないか?」
「ああ、そうしてくれ」
それにココロが本当に捨てられたなら、これからお金が必要になるだろう。
宿屋に泊まるにも、見習い冒険者になるにもお金がかかるからな。
それにあいつは家に帰ろうとしている。
本当は止めるべきなんだろうが、あの年齢じゃわからないだろう。
本当に迷子になっていただけかもしれないからな。
ビッグベアーは良い資金になるだろう。
俺も助けてもらったわけだしな。
「あとは紅蓮の冒険団についてだがどうする?」
「どうするとは?」
「冒険者ギルドとしては最近のあいつらの行動を問題視しているからな。問いただすことはできるぞ?」
「あー、それなら話を聞いてみてくれ」
「わかった」
ギルドマスターはどこかニヤニヤとしていた。
彼らはちょうどこの町を拠点にして活動をしているらしい。
今はちょうど依頼で出払っているのが幸いだ。
「じゃあ、俺もしばらくはココロの面倒を見ているから、何かあったら呼んでくれ」
「ははは、なんやかんやでお前も良いやつだな」
「だろ?」
俺は笑いながらココロ達のところへ戻ることにした。
「俺は元騎士様だからな」
ボソッと呟いた俺の声は、空に静かに響いていく。
───────────────────
【あとがき】
「ねぇねぇ、ここにおねがいするんだって?」
僕はケルベロスゥと並ぶ。
「おほしさまとれびゅーください!」
『肉をくれ!』
『評価とレビューをお願いします!』
『良い男を紹介しなさい!』
あれれ?
ケルとスゥはお願いごとが違うよ?
『おい、ニクの注文じゃないのか?』
『ここはお見合いのお願いじゃないのかしら?』
『はぁー、やっぱり兄さんと姉さんに任せたらダメだね』
どうやらケルとスゥは間違えてしまったようだ。
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