短編読切 薫衣草
夏川
第1草 『共感セツナ』
これは高校1年生の頃の話だったと思う。
何故か不確定な言い回しになっていることに僕自身も疑問を抱いているが、今の僕にとってはそれくらい小さい出来事だったのだ。
ふと、あの日のことが夢に出てきたから、なんとなく思い出してみているだけで…
僕の高校時代は至って平凡だった。朝は7時半に登校し、一度も級友に話しかけることも話しかけられることなく、16時か17時には帰る。たまにクラスメイトに話しかけられたとしても文化祭の準備など業務的なものであった。
ある日、中庭で空を見上げながら昼食を食べていた。白くて三角の形をした何かが僕の前を横切った。
「あ、紙ひこうき。」
と気づいた時には、視界の隅から走ってくる人影が見えた。
「ごめん、当たってない大丈夫?」
どこかで聞いたことがあるような爽やかな声が聞こえてきた。あぁ、同じクラスのお調子者か。悪い人ではないんだろうけど、接点ないから気まずいな。
「俺さ、飛行機好きなんだ。」
え?聞いてないのに何を言ってるんだ。いや待て、飛行機なら僕も好きだ。少しだけ話を聞いてやろう。
それから数分、僕らは飛行機の話に没頭してしまった。そろそろ昼休みが終わるかも、教室に戻らねば。そんなことを思っていると、
「あ、ひこうき雲」
彼がそう言ったので僕も空を見上げた。
「「かっけぇ〜!!」」
僕らの声は揃った!
その刹那、彼と僕は分かり合えた気がした。
だけど、クラスのお調子者でいつも輪の中心にいる彼とお手洗い以外で自分の机から動かずに休み時間を過ごす僕にそれ以上の共通点はなかった。
僕たちは切なさを感じながらも自分の日常に戻っていく。
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