ドキドキ?!仮面をぶち破れ!!

筋骨

第1話 起きろ!気絶するにはまだ早い!!

「いたぞ!あそこだ!」

「今度こそ必ず捕まえろ!我々の威信にかけてだ!いよいよ我々の信頼がなくなるぞ!」

 背後から声が聞こえ、静かな住宅街に足音が響く。思わず振り返るとそこには一匹の狸が猛スピードでこちらに走ってきているのが見えた。正確には本物の狸ではなくタヌキの着ぐるみを来た何かだった。しかも茶色のさらに後ろになにか黄色いものが追いかけている。とりあえず走った。

 自分が終われているわけではないのは分かっているけど、なぜが逃げなくてはならないそんな気がしたからだ。

「なんでこれから通う高校を下見に来ただけなのにっ」なぜ自分は走っているのかまで言いたかったが、そこまで言えるほど口が動かない。酸素と二酸化炭素の排出でいっぱいいっぱいだった。結果的に逃げたのは失敗だったと思う。猪やクマにあったときは背を向けて逃げるのは死に直結する選択肢だとTVで言っていた。背を向けずゆっくりと下がっていくのが正しいという。なるほどなぁ、山には登る機会はないだろうけど、野生動物ぐらいには会うか。その時はそう思ったけど無理だ。狸がどんどん近づいてくる。パニックを起こす。呼吸が上手くいかない、足がもつれて前に走れない。アッと思った時には地面と挨拶をした。

「起きろ!気絶するにはまだ早い!!」

地面に正面衝突したと思っていたが、茶色のモフモフの腕の中にいた。狸が俺を抱いて走っている。しかもお姫様抱っこときた。どこのだれともとも知らない人の家の塀を走りぬける。

 待てよなんよと後ろから怒声が聞こえる。その声の主は黄色の物。上と言えば下、海と言えば山、たけのこと言えばきのこと言ったように、狸のライバルとして挙げられる狐だった。

 黄色の正体は狐だ。勿論、例によって本物の狐ではなく、狐の着ぐるみ。

「なんで着ぐるみの狐に追われているだ…」しかも一匹じゃない何匹にも追われている。

「一匹というのは間違っている!正しくは一人だ!」

「あれの中にいるのは人間なんですか?」

「分からん。何人かはだろうが、それ以外は一体だ!」

「人じゃないんですか?!」

「ふはははっ!!その場合もあるというだけだ」人間じゃない場合もあるんだ。シンプルに怖え。

「そもそも人間なんですか?あなたは」

「人間じゃないとだめなのか!動物差別だ」

「人間の言葉を話す狸もいるかもしれないけど、人の言葉を話してるならとりあえず人間なんですよね?」それは言えないと正体がばれるからとその方がかっこいいからと狸は言った。

「なんで助けてくれたんですか?」ほっといても良かったはずなのに…。あそこで倒れていても狸には関係がない。助けた方が逃げるのには重りとなる。

「情けは人の為ならずだ」

「いい事をするとは回りまわって自分に戻ってくるってやつですか」

「そうだ!あそこで倒れていては連中に何をされるかわからん」

「このまま安全な所に運ぶ。それまでしばし辛抱し…」

 狸(っぽいなにか)が言いかけた言葉を飲み込んだ。飲み込まずはいられなかった。さっきまで器用に走っていた塀を降りた。

 直後、日常では聞きなれない音が聞こえた。そのあと横にあった立派な桜の木が燃えた。狐がロケットランチャーを打ってきたのだ。

 連中飛び道具を使ってきたか!と道路からまた塀へとぴょんとジャンプした。それが悪かった。連中と言われる狐がどれだけこの狸(仮称)と張り合い相手の事を熟知していたのかは分からない。けれど今日初めてあったというわけではなく、それなりに因縁がある感じだった。故に、読まれていたのだ。再び塀に乗る事を。

「ごめん。さっきの話はなしだ!無事を祈る」

放り投げた。宙に。勝手に助けられ勝手に投げられたのだ。

「え?うっあああああ、ごめんで済むわけないだろうが」

必死の叫びも空しく。あの音にかき消された。

 直後、さっきまでいた地点にロケランが飛んでくる。どの遊園地のジェットコースターもこのスリリングな感覚は再現できないだろう。住宅地が終わり、川が見えた。もしかしたら狐はそれを知っていて撃ったのではないか。狸を川に沈める為に誘い込んだ。ロケランを使う狐なのだ。それぐらい知っていて当然の事かもしれない。地面の次は川に入学のご挨拶をする事になった。

 あの狸とあった時、「どうもこんにちは、桜が綺麗ですね。今週末の雨で散っちゃうので今日が最後かもしえませんね!では、また」とでもすれ違い際に言えば助かったのだろうか。そうすれば、そうすればロケランに吹っ飛ばされなかっただろうか。あとあの狸許さねぇ…そう思いながら眠りについた。

 気づくと「あなた、犬神家みたいになっていたそうよ」病院で看護師さんに言われた。身に覚えがなさ過ぎた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る