老いた夏




 風鈴が鳴る。蝉の声に紛れながら、夏の風に揺られて時を奏でる。

 団扇を仰ぐ手が止まった。縁側の戸口に身を預け、汗が滲むのも忘れていつかに浸る。

 静かになってしまった夏に、昔の賑わいを懐かしむ。冷茶も西瓜も、今は御膳にたった一人分。冷たい、甘いと騒ぐ声が薄れ、消えて早十年。この手は気付けば老け込み、先祖の帰りを未来の自分に重ねるまでになった。

 早過ぎる時の流れがもたらす孤独や虚空を、夏の音がまた誤魔化した。



❇︎あとがき❇︎


孫が帰らなくなったら、と想像すると。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る