十一話 女先生生徒対男先生生徒

 アワビ帝国にある城のとある一室で布団をかけてベッドで眠りに就いていたムベンガが目を覚ました。


「うぅ……」


 目覚めたばかりのムベンガは眠気が一気に覚めた様子になって勢いよく上半身を起こした。


「やぁ。起きたかいムベンガちゃん」


 部屋にある椅子に座っている一人の二十代後半くらいの男がムベンガにそう話しかけた。


「ここはどこですか……!?」


「全然落ち着いて良いよ。僕は何も危害は加えない。あぁここ? ここはアワビ帝国のアワビ城だ」


「アワビ帝国……!? なんで……」


「こんなイヤらしい国に来たと聞かされたらそりゃあビックリするよね」


「あなたは誰ですか……」


「僕? 僕はケガニ。あ、美少女コンテスト見てたよ! 後でサインちょうだい!」


「え……サイン……それが欲しかったら私をはや……魔法都市サザエに返して下さい」


「残念ながらそれは出来ない。ムベンガちゃんが逃げないよう見張るのが僕の仕事なんで。逃がしたらサソリさんに怒られる」


 ケガニと言う名の男がそう言った時、部屋の出入口の扉が開いてサソリが部屋に入って来た。


「起きたか兄の娘」


「あなたは……! お父さんの……!」


「あぁ……双子の弟だ」


「なぜ私を拐ったのですか……!」


「子供っぽい言い方だが私の目的は兄の娘を利用して兄の絶望させたい。それが理由だ」


「絶望……」


「ちなみに兄は捕まって牢屋にいる」


「え……!?」


「これがどういうことか分かるな。お前を救出しようとする者は一人もいないということだ」


「ムベンガちゃんは友達作らないで有名だもんね〜」


「……います」


「います?」


「誰がいるって?」


「颯……!!」


 ムベンガは真剣な表情でそう言うと、サソリとケガニは不思議そうな物を見る時になる様な顔になった。


「なんだそれは……」


「私の……幼馴染です」


「ハヤテって転生者?」


「……それはお前の恋人か」


「はい……」


「ハヤテと言う者……呼んでやろうか」


「よ……呼ぶ……!?」


「忍者などに依頼すればお前の周りを調べるなんて簡単なことだ。だが会う選択をすればもっと面白いショーをお前に演じてもらうが」


「もし恋人を呼ばなくてもこの先辛いことが待ってるけどね〜」


「どうなんだ兄の娘」


「颯に……会いたい……だけど……」


「さっさと答えろ。恋人を巻き込むか、一生会わないを選択するか」


(本当は颯を呼ぶなんて颯を危険に晒すだけでいけないことなのに……本心が颯に会いたくて会いたくてたまらない……!)


 ムベンガはそう思った時、サソリは部屋の外に繋がる扉に向かって歩き始めた。


「即答出来ないということは呼んだ方が面白そうだな」


 サソリはそう言って部屋の外に出た。


「良いんだねムベンガちゃん」


「私にとって颯に会えなくなることは……この世で一番辛いことです……また颯に会えると思ってしまったら……もうまともな考えは出来ません……」


「面白いね〜!」



 颯達が魔法学校上級の授業を受け始めてから十日が経った日の朝、996番目の教室ではカイグレ・潮・サギフエの三人で話をしていた。


「今日は女先生生徒対男先生生徒をやるわよォォ……!」


「どう言う意味だ?」


「今から二人は借りたバトル大会のフィールドに飛んでもらって男先生生徒を倒せばいいのぉぉ……」


「分からんぞ……」


「多分……海・バケダラ・颯・ライノ対爽・凪・潮・私よ。その舞台をバトル大会のフィールドでやるってことでしょうね」


「その通りよサギフエェェ……! バトル大会のフィールドではね……一度死んでも復活できるから思う存分戦うと良いよぉぉ……!」


「先生燃えてるわね……」


「なら……飛んだ先で我は海とバケダラ、颯とライノを倒せば良いんだな」


「簡単に言えばそぉぉ……あぁ……! バトル大会運営者が決めた時間になりそうだから二人共ぉぉ……武器ミラーで武器を手にしてから行ったほうが良いよぉぉ……あ……開始時間まで10……9……」


「え!? なんかカウントしてない!?」


「先生がいつもやる儀式が長すぎるからだぞ!」


「潮! 武器ミラーで武器取りに行くのよ!」


 潮とサギフエは走って武器ミラーの前まで走った。


「とりあえず剣!」


「斧!」


 潮とサギフエは武器ミラーから出てきたそれぞれ口にした武器を手に取った。


「ゼェェェェロォォォォ……ワァァァァプゥゥゥゥ!!」


 カイグレはそう叫ぶと、潮とサギフエは一瞬でその場から消えた。



 サギフエは辺り一面高さ2m以上ある草で覆われている所に来た。


(潮がいない……別々の所にワープしたのね……)


 サギフエは自身が立つ場所は草むらじゃない普通に歩ける道だと気付いた。


「道を歩いていたら目立って狙われやすいから……草むらに隠れた方が良いのかしら……」


 サギフエはそう呟いた瞬間、目の前の草むらが激しく動き始めた。


「え……!? もう誰か来るの……!?」


 サギフエの目の前の草むらから爽が出てきた。


「あっ! サギフエちゃん!」


「あなただったの……爽は敵じゃないわね」


「ふっ……大丈夫! 俺はサギフエちゃんが敵でも攻撃しないから!」


「爽は目障りだからあっち行っててくれる?」


「ガガーン……」


 サギフエにそう言われた爽はかなりショックを受けた様な表情になった。


「し……失礼しました……」


 爽はゆっくりと後退りを始めた。


「待ちなさい爽。私が隠れるからその間に道を歩いて敵を惹きつけなさい」


「え!? 敵!?」


「いたらね。さぁ行きなさい!」


「サギフエちゃんがそう言うなら行きます!」


 爽は道なりに歩き始めた。



 爽が道なりに歩き始めてから数分後、同じく道なりに歩いていた颯と出会った。


「確かにサギフエちゃんの言う通りいた!」


「爽か……! 爽は確か女の先生だったな……! つまり敵だ!」


「颯……お前がどれほど強くなったか見せてみろ!」


 颯は爽に向かって木製のブーメランを投げた。しかしそれを爽はよけて右拳に毒の魔力を込め、その右拳で颯の腹を思いっ切りパンチした。


「うっっ……!!」


 爽に殴り倒されて颯は気を失った様に目をつむった。颯はその場から一瞬で姿を消した。


「消えた……これがカジカちゃんが言ってた負け判定か……にしても颯弱すぎだろ! 毒の魔法いらなかったわ!」


 颯は997番目の教室に横になった状態でワープした。


「もうやられたのか!!」


 ドラドは戻って来た颯にそう声をかけた。


「す……すみません!!」


「早すぎたから百回腕立て伏せだ!!」


 ドラドは颯にそう指示すると、颯は腕立て伏せを始めた。


(爽……強かった……私は全然駄目だ……! もっと頑張らなくては……!)


(颯を一撃か……あの男かなり強いな……!!)



 バトルフィールドにいる凪は海と出会った。凪は大鎌を手にしていた。互いが無言のまま海は右手で握るように石の剣を出現させ、凪に向かって襲ってきた。


「速っ……!」


 そう一瞬思った凪は一瞬で海の攻撃によって倒された。



 バトルフィールドでサギフエとバケダラが草むらの中で出会っていた。


「あなた……よく草むらに隠れていた私を見つけられたわね……名前は……」


「私はバケダラ! よろしくね!」


「バケダラ……先生は男よね?」


「そうだよ!」


「なら勝負ね。覚悟しなさい」


 サギフエはそう言うと、何も持っていない左手に魔力を込め始めた。


(まだ慣れていないから作れるかどうか……)


「……隙だらけだよ!」


 バケダラはサギフエにそう言って刀を手にし、その刀でサギフエの体に切り傷を一つ与えた。


「速すぎる……!」


 サギフエは倒れた。その数分後、サギフエは996番目の教室にワープした。


「う〜ん……」


「おかえりィィ……!」


 サギフエは目覚めると目の前にカイグレがいた。サギフエに付けられた斬り傷は消えていた。


「先生……私何も出来なかったわ……」


「凹むことはないぃぃ……! 次敗けなければいいのよぉぉ……!」


「分かったけど……先生めっちゃ悔しそうね……」


「あたりまえよぉぉ……!! ふぉぉーー!!」


「怖すぎ……」



 バトルフィールドにいる潮はライノと道で出会っていた。潮は重たそうに斧を持ち、ライノは鼻がある部分がツノになっていた。


「お前男の先生か……」


「そうだよ〜」


「なんかお前変だな……鼻につけたツノで攻撃する気か……」


「そうだよ。あと君こそ変だよ」


「どこがだ……!」


「斧重たそうにしてる」


「今攻撃するから待っていろ……!!」


「良いよ待ってあげる」


 この数分後、潮は負けることになる。



 バトルフィールドで爽と海が出会った。


「お前は……!」


 海と爽が無言のまま数十秒間経つと、爽は両拳に毒の魔力を込めて海は新たに石の剣を作って右手で握った。


(あいつ……手加減の神を倒したタイムが俺より早かった……! ガチでやらないとな……!)


 爽はそう思って数秒後に海に向かって走り、パンチしたがかわされ、海は爽と少し距離を取った。


「あれは毒か……」


「剣なんて溶かしてやる!」


 爽は海にそう宣言すると、海は爽に向けて剣を振るった。爽は海の剣を右手で掴んで溶かした。


「喰らえ!」


 爽は海の腹を殴って海を少し吹っ飛ばした。


「くっ……」


 海は床に膝がついた。すぐさま海は新たに右手で握る様に石の剣を作った。


「すぐ倒れないが……毒は喰らわせた! これでお前は終わりだな!」


 爽はそう言ったが海は立ち上がった。海は爽の毒が効いてる様子は無く平然としていた。


「あいつ……俺の毒を喰らったはずだが……まさかあれをやったのか……!?」



 数日前、998番目の教室で爽と凪はカジカと話をしていた。


「自然魔法にはね、命あるものには全然効果が無いんだ。例えば自然魔法の火は生き物が浴びてもめっちゃ熱いだけで済むんだよ。物は良く燃えるけどね」


「まぁ……いつでも人がガチの火が出せたら危ないもんな……」


「自然魔法の火では木は燃やせないけど枯れ木は燃やせるんですね」


「その通りだね凪」


「なるほど……」


「ちなみに人の住む家は魔法に強い素材で出来てるし、衣類などは神が作った自然魔法が効かない素材で作られたものを着ているんだよ」


「へぇ〜」


「つまり……無心だったら最強ってことですか……?」


「なるほど……! 凪その手があったか……!」


「確かにね……でも無理だと思うよ。無心で戦うなんて」



 そして現在に戻り、海と爽が対決してから少し経った頃――


「無心かお前!!」


 爽は海に向かってそう聞いたが海は何も答えなかった。


「無心になりながら戦えるのはやべぇな……俺もやってみるか……」


 爽はそう思って無心になろうとしたが、爽の心の中は大勢の胸のある女性でいっぱいになった。


「あ……俺、無心無理だ……無心になろうとすればするほど雑念が大きくなる……諦めよう」


 爽は心の中で無心になるのを諦めた瞬間、海が爽に向かって襲い掛かってきた。


「ちょ! たんま!」


 海が振るった石の剣が爽の左肩に命中した。


「くっ……! あいつは痩せ我慢の可能性はあるがどちらにしても俺の毒を喰らっても速いままなのは確かだ……!」


「お前も痛みを消したかったら無心になるんだな」


「うわ喋った!」


「……喋って悪いか」


「良いのか。喋ると毒が回るぜ」


「いらん心配だ」


「まぁいい! 行くぞ!」


 爽は両拳に毒の魔法を込めて海に向かって右拳でパンチしたが、海は避けて石の剣を爽の腹に直撃させた。


「この野郎!」


 爽はやり返すように右拳で海の左頬を殴った。



 三十分が経過した。それほど時間が経っても海と爽の戦いは決着がついていなかった。


「はぁ……はぁ……」


 海と爽は両者共にかなり疲労している様子だった。


「二人とも、終了の時間だ」


 その場にそう言うゴギが現れた。


「実はバトルフィールドの貸し出し時間がもう無いんだ。悪いが止めさせてもらう。二人共、学校に戻るぞ」


「ハァ……ハァ……くそ……!」


「……決着は……また今度だ」


「もちろんだ……!! 絶対な……!!」


 海と爽は互いに再戦を誓い合うと、その場にいる三人は一瞬で姿を消した。



「……爽戻った? いや〜凄かったね!」


 998番目の教室に戻ってきた爽にカジカはそう褒めた。


「決着まであとちょっとだったのにな〜……」


 爽はそう嘆いて床で横になった。


「ごめんね……貸し出しの時間が限界だったから……とりあえず二人共おつかれさ〜ん」


(……僕は何も出来なかったけど)



 999番目の教室ではゴギ・海・バケダラが床に正座で話をしていた。


「バトルフィールドで生き残っていたのは海・バケダラ・ライノ・爽だった。この対決は男先生チームの勝利だ」


「女先生チー厶は爽だけ残ってたね……」


 バケダラは怖い顔をしている海を横目で見ながらそう呟いた。


「それにしてもここでモニター越しに見ていたがこんなに決着つかない戦いは初めて見た」


「……俺は悔しいと思っている」


「海……この世界にはバトル大会と言うものがあるからそこで決着をつけろ。道ばたでやるなよ」


「バトル大会……分かりました。そこで決着つけます」

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