大好きな女友達を観察しているだけ。

海島るる

寄り道

寄り道


「コンビニにいこう!」とアリちゃんは言った。


とある春の日。私とアリちゃんが同じ高校に入学して三日が経った帰り道のことだった。その日はまだ入学したばかりということで、お昼くらいに学校が終わって早めに下校できたのだ。


少し前に満開の時期を終えた桜がひらひらと散る坂道を、アリちゃんは軽い足取りで駆け降りていく。長くて綺麗な黒髪が、さらりと風に揺れた。


「アリちゃん、まって」

そのあとをついていく。でも、アリちゃんはいつも私が追いつける速さで小走りするから、すぐに横に並ぶことができた。


「一応今日のホームルームで、寄り道はしないでねって言われたのに……もう破るの?」

「矢野は頭がかたい! 大丈夫、コンビニは寄り道に入らないよ」アリちゃんはなぜかどや顔でそう言い、「入ったら30秒くらいで出ればいい」

「えっ……なんで?」

「30秒で出たらさ、『寄る』うちに入らないんじゃない? あ、そうだ! 『通った』ってことにしようよ」


昼間のあたたかい日だまりの中でけらけらと笑うアリちゃん。言っていることはよくわからないけれど、アリちゃんがあまりにも自信満々に言うものだからつい笑ってしまう。


「アリちゃんって、昔から発想変だよね」

「そうかな? あ、コンビニ着いたよー」


そんなことを話していたら、コンビニの前まで来ていた。

アリちゃんはキョロキョロと辺りを見渡し、「……たぶん学校かんけーしゃはいない」と呟いた。

なんの根拠で…?という言葉はのみこんで、


「私はここで見張ってよっか?」

「いや!矢野も一緒に行こう。一緒に行って30秒で出よ!」

「無理じゃない?」

「最初にさぁ……何買うか決めとく?」

「全然話聞いてないね…。まぁ、でもそのほうが早く出られるよね」

「だよね!うーん……」


アリちゃんは手を顎にあて「うーんうーん」と唸りながら、さも深く考えているような素振りを見せる。いろいろ小芝居してるけど、きっとグミか何かじゃ……

「グミかなぁ〜」

やっぱり。アリちゃんは昔からグミが好きなのだ。

「……じゃあ、私も同じので」


私がそう言うと、アリちゃんはニヤッと笑う。

そして、「…おんなじ」と言った。

大きな目がぐっと綺麗な三日月の形になって、ついどきどきしてしまう。


「もし途中で息絶えても、あたしの屍は踏んでくれて構わないよ!」

「コンビニで息絶えることはないんじゃないかな」

「よし、ではいこう。いざ!」

アリちゃんはコンビニの入店音とともに、いさましく自動ドアをくぐっていった。



結局、アリちゃんは30秒にこだわるあまり、目についた適当なグミを手にひっつかんでレジまで持って行った結果……

「煮干しグミって何?」

「……お、美味しくない……」

半泣きになりながら、微妙な味のグミを噛み締めることとなった。

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