第8話 姉さんとのエモくもない想い出【とある短編の元ネタ】
僕がまだ、マンションの廊下の手すりを鉄骨渡りするくらいにはクソガキだった頃に、実家マンションの目の前にある公園の、奥まったところにある小さい森のようなところを抜けて、小さな小さな広場に行っていた。
近くに古墳があり、オオスズメバチの巣のある大木があり、マムシが出る地帯があるだけの小さな広場。
そこにぽつりと置かれてあるベンチに座り、特に何をするでもなくぼうっとする。
その日も、そうだった。夜遅めの時間にこっそりと家を抜け出し、いつものように公園のベンチに座り、夜空を見る。閑静な住宅街にあるその公園の、しかも人が全く来ないような広場からは、星がよく見えた。人の声もせず、世界にただ一人きりになったかのようだった。
その空間を切り裂くのは、いつだって姉さんだった。
「どっせい!」
かけ声とともに、背後から首を突かれる。びっくりして飛び上がると、姉さんがにへらと笑って立っていた。
姉さんとは言っても、血のつながりはない。そう表現するとややこしい家庭のようだけど、僕の家系図は別にややこしくはない。戸籍上のつながりもなく、ただただ姉と弟として一緒にいる人だ。
ほかにも姉さんの養父母さんが引き取った二人の女の子と、家族のように育った。
「びっくりした?」
「そりゃするやろ」
「へへへ、君を驚かせるんが生きがいやけんね」
「ほかにもっとあれよ」
「君を喜ばせるのも生きがい」
「え、好き」
会話が鮮明なのは、昔からつけていた詳細な日記のせいだ。律儀に、会話内容まですべて書かれている。そんなだから、一日分の日記が数ページにも渡っている。
彼女はいつも、適当なことを言うし、適当なことをする。けれど、時折真剣そうな表情で心臓に悪いことを言ってくる。ちょっとときめくやん、やめてくれよ。
しかし、次の瞬間にはまたアホなことを言う。
「あ、UFO」
「はいはい」
「ねえほんまにUFOやって!」
「なわけないやーん」
「うんこファウンドワン!」
指した方向を見ると、たしかに犬の糞があった。
よくよく考えると、姉さんは結構な頻度で僕と同じタイミングでこの広場に来ていたけど、当時彼女が住んでいた養父母さんの家は、近所じゃないんだよな……。というか、むしろそこそこ遠め。
なのになんで来てるのかと、聞いてみたことがある。
「ヒロくんがおる気がしたけん連れてきてもらったったい」
とのことだ。
エスパーかよ。
なお、いる気がしたけどいなかった回数は4回ほどらしい。
ちょっと唐突に姉さんとの思い出を語りたくなったから少しだけ書いてみたけど、これを元ネタに短編書いたってまじか、と自分で思う。しかもちょいエモな感じの……。
現実は全くエモくないけど、これはこれでいい思い出だ。
いや、うんこファウンドワンってなんやねん!!
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