ノベルの恋人

天川裕司

第1話 ノベルの恋人

タイトル:(仮)ノベルの恋人


▼登場人物

●野辺流 翔(のべる しょう):男性。40歳。小説家。独身。若く見える。恋愛歴ほぼ無し。世の中の女性に絶望している。

●時野 穂乃果(ときの ほのか):女性。30歳。翔の小説から抜け出てきたような子。物腰の柔らかいかなりの美女。

●遊芽尾 香苗(ゆめお かなえ):女性。30代。翔の「ずっと愛し合える恋人と生涯を添い遂げたい」と言う本能から生まれた生霊。悩みコンサルタントをしている。

●時田 穂乃果(ときた ほのか):翔が書いている小説の中の女性キャラクター。現実には存在しない。この穂乃果にそっくりな女性として時野 穂乃果が現れる。


▼場所設定

●翔の自宅:民営アパートのイメージで。

●バー「ノベル」:お洒落な感じのカクテルバー。マンガ喫茶のように店内には小説が置かれている。香苗の行き付け。


NAは野辺流 翔でよろしくお願いいたします。



メインシナリオ~

(メインシナリオ(ト書き・記号含む)=3637字)


ト書き〈自宅で小説を執筆中〉


翔「えーと・・・ここでこうなって・・・最後に主人公の少女が恋人を殺して・・・」


俺の名前は野辺流 翔(40歳)。

ご覧の通り小説家。

俺の得意ジャンルはグロ系ホラーサスペンス。


翔「あ~~ダメだ!煮詰まっちゃったぁ!・・・はぁ。こんな時、優しくお茶でも入れてくれる女性が居たらなぁ・・・。でもこんな現実じゃ、無理な話か・・・」


俺は世の中の女に既に絶望していた。

これまで付き合った回数はほんの数えられる程。

そのいずれも浮気されて捨てられた。

女は捨てる時が早い。

飽きた相手には一片の情けもかけず、まるでゴミのように捨てるのだ。


それ以来、俺のもとに女は一切寄って来なかった。

と言うか、俺の方が世の中の女を避けていたのだ。


翔「でも、彼女だけはずっとそばに居てほしいなぁ・・・」


俺がいま夢中になってるのは小説の中の主人公。

「時田 穂乃果」

俺の創作キャラだが、現実の女なんかより遥かにいい。

上品で愛らしく理知的で、物腰は柔らか。

それに何より浮気を絶対しない。


現実の女は必ず浮気する。

思い通りに振る舞って、自由奔放に生きていく。

経験上、俺はそんな現実の女に合わせられない。

合わせる気もない。


そう、俺はつまり理想と付き合いたいのだ。


ト書き〈バー「ノベル」へ〉


そんな或る日の事。

気分を少しでも晴らそうと飲みに行った。

いつもの飲み屋街を歩いていた時・・・


翔「バー『ノベル』?新装かな」


全く知らないバーがある。

店内には沢山の小説が置かれていた。


翔「おお、結構イイとこだなぁ♪」


俺は無類の小説好き。

客も少なく落ち着いていたので、俺はカウンターで飲む事にした。


するとそこへ・・・


香苗「こんばんは♪お1人ですか?ご一緒してもイイかしら?」


1人の女性が現れた。

割と綺麗な人だ。


彼女の名前は遊芽尾 香苗。

年齢は30代くらい。

ライフコーチをしてるらしい。

軽く自己紹介し合い、暫く喋った。


話す内、何となく不思議を感じた。

「どこかで会った事のある人・・・」

そんな感覚が彼女から何気に漂うのである。


香苗「そうですかぁーフフフ♪」

翔「そうなんスよね~♪でねー・・・」


それに一緒に居るとなんだか、自分の事を打ち明けたくなる。

気付くと俺は、今の悩みを全て彼女に打ち明けていた。


翔「ハハ、ダメなんですよ僕。世の中の女性にはもう・・・絶望していて。でもあなたはなんだか不思議な人ですね。こうして話してても、他の人とは全然違う印象を受けてしまいます♪話してて楽しいと言うか、心休まると言うか」


香苗「有難うございます。そう言って頂けると嬉しいです。でもそうですか、あなたはいま女性に絶望しているけど、心休まる女(ひと)にはそばに居てほしい。自分をずっと捨てない人、優しい人、可愛らしい人、ずっと愛し合える人、そんな人と人生を添い遂げたいと強く希望してらっしゃるのですね」


翔「ハハ、ええ、まぁ」


香苗「素晴らしい事です。そういう夢をずっと強く持ってるというのは♪まさに『理想と付き合いたい』という自分の正直な人生を実践されているような、そんな感じですね。わかりました。そのお望み、叶えて差し上げましょうか?」


翔「え?僕の理想を叶えてくれる?」


香苗「ええ。あなたに相性がピッタリの女性をご紹介して差し上げます♪」


翔「ま、まさか」


香苗「彼女もあなたと同じく小説好きです。きっとフィーリングも合うでしょう。彼女も1度世の中の男性に絶望した経験があります。ですが最近、私のセミナーへいらっしゃるようになって、少しずつ心も豊かになってきました。それで彼女は今、心休まる男性のパートナーを探しておられるんですよ」


翔「ほ、本当に・・・?」


香苗「そうですね、明日の夜は空いてますか?もしご都合がよろしいようでしたら、またこのバーへいらっしゃいませんか?そこでご紹介しますが?」


ト書き〈翌日の夜〉


翌日の夜。

俺はまたバーへ来た。

そしてそこで香苗の言ってた1人の女性を紹介された。


穂乃果「初めまして♪時野 穂乃果と言います。どうぞよろしくお願いします」


翔「え・・・ええ?!」


心底から驚いた。

彼女はなんと、

「俺が小説の中でイメージしてた理想の女性像」

そのままだった。


顔は綺麗で愛らしく、上品で物腰も柔らかだ。

又、どことなく理知的な印象もある。


翔「はぁ・・・」(見惚れている)


香苗「気に入られたようですね♪いかがです?このまま付き合ってみては?」


翔「え、ええ?」


まさに夢のような展開!

俺は即OKした。


ト書き〈数日後〉


それから数日が過ぎた。

俺と穂乃果はそのあいだ何度かデートした。

デートする度、俺は穂乃果にどんどん惚れていった。


小説もどんどん書ける。

やはり現実に恋愛してると感情が揺さぶられ、ネタもどんどん湧いてくる。


翔「ここでこうなってああなって、そうだ!この展開で主人公が恋人を殺しちゃって、それまでの流れから全然違うどんでん返しの結末へ持って行こう」


書いてるジャンルはやはりグロ系サスペンス。

今度、大手出版から原稿依頼を受け、俺は本気で書いた。

今度こそ、名前が売れるかどうかの大勝負!

こんな時はやはり得意分野で勝負するのが鉄則だ。


翔「よし出来たぁ!ぐふふふ、こりゃ傑作だ♪」


ト書き〈バーへ〉


仕事に区切りが付いたので、俺はまたバーへ寄った。


翔「あ、香苗さん♪」


カウンターに香苗がいるのを見つけ、俺は走り寄った。


香苗「お久しぶりですね。どうですか?その後、穂乃果さんとは?」


翔「本当に有難うございます!お陰で今もずっと幸せな毎日です♪やっぱり彼女は抜群の小説好きですね。話が合うどころか、時々僕にアドバイスなんかくれたりするんですよ♪このままずっと一緒に居られたらって思います!」


香苗「そうですか♪あ、でも1つ言い忘れておりました。穂乃果さんとは恋愛の範囲に留(とど)めるようにして下さい。決して『結婚しよう』なんて思わないように。でなければ、あなたの身に不幸が訪れるかも知れませんので」


翔「は?・・・ど、どうしてそんな事言うんです?」


香苗「前にもお話しましたが、彼女は今でも私のセミナーへ通ってらっしゃいます。つまりまだ心に悩みを抱えて居られ、その解決法を見付けていない状態なのです。そんな状態で結婚してしまえば、きっとまた暴走してしまい、相手の男性に心の刃(やいば)を向ける事になってしまうかも知れません」


翔「心の刃・・・?ど、どうして今になって急にそんな事を!嫌ですよ!彼女と別れるのなんて!彼女は僕にとってまさに理想の女性そのものなんです!他の女性とは全然違う何かを持っていて、それが僕の心を安らげるんです!」


いきなり「穂乃果と結婚するな」みたいな事を言われ、俺は憤慨した。

俺は何度も食い下がり、

「絶対別れたくない!いずれ穂乃果と結婚する」

と香苗に言った。


香苗「そうですか。・・・仕方がありませんね。私も彼女をご紹介した時に言っておくべきでした。・・・わかりました。ではもうとやかく言ったりしません」


香苗「でもいいですか?今後、穂乃果さんとあなたとの間に何かトラブルが起きても、私は一切責任を持ちません。彼女を本気で愛するのなら、最後まであなたが彼女を包容し、2人の仲を自力で育んで行けるよう努めて下さい」


翔「そ、そんな事、言われる迄もありませんよ!」


ト書き〈本性を表す穂乃果〉


それから数か月後。

俺と穂乃果は結婚した。

今は俺のアパートで一緒に住んでいる。


翔「ぐふふ♪この俺が結婚できるなんて。夢みたいだな。世の女に絶望してたのが嘘みたいだ。穂乃果が現れてから、俺の女性観、いや世界観みたいなのが一変したよ♪よーし!2人の将来の為に、書いて書いて書きまくるぞぉお!」


創作意欲は更に湧く。

また次のサスペンス物を書いていた時・・・


穂乃果「あなた、お茶が入ったわよ」


翔「ああ、有難う♪」


穂乃果が書斎に入ってきた。

お茶をテーブルに置き、俺の背後から、じっと原稿を見詰めている。

そして・・・


穂乃果「・・・そうそう・・・その主人公の女の人・・・そのラストの場面で、結婚した相手の男性をめった刺しにして殺しちゃうのよね・・・こんなふうに・・・!」


(背後から刃物で翔を刺し殺す)


翔「え?う、うわぁぁ!」


ト書き〈翔のアパートを外から眺めながら〉


香苗「だから言ったのに。結婚するのは無理だと。彼女は文字通り、翔が得意ジャンルで書いていたホラーサスペンス小説から抜け出てきたような子。現実の女性に絶望していた彼の為に、私がそんな彼女を引き合わせてあげた」


香苗「でもホラー小説の主人公の彼女だったから、その生き方も、小説の中の主人公と同じになってしまう。つまり人を殺す事に躊躇しない、サイコパス気質を秘めた女性。翔は自分のラストの場面を小説で描いちゃったようね」


香苗「私は翔の『ずっと愛し合える恋人と生涯を添い遂げたい』と言う本能から生まれた生霊。彼の得意ジャンルがほのぼのとした、ヒューマンドラマならまだ良かったかも知れない。選んだ得意ジャンルが、悪かったわね・・・」

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