第2話 2

 1985年2月7日、松岡家では隼人の1歳の誕生日を祝うパーティーが開かれた。家族や親戚、友人たちが集まり、隼人の成長を祝った。リビングルームは風船や紙の飾りで華やかに飾られ、テーブルの上には特製のバースデーケーキが置かれていた。


「おめでとう、隼人。今日はあなたのための特別な日よ」


 恵子が言いながら、ケーキに1本のロウソクを立てた。


 正和が隼人を抱き上げる。


「隼人、一緒にロウソクを吹き消そう」


 正和が言うと、隼人は興味津々でロウソクの火を見つめた。


「ふーっと吹いてごらん」


 恵子が優しく教えると、隼人は一生懸命に息を吹きかけた。ロウソクの火が消えると、部屋中に拍手が響き渡った。


「よくできたね、隼人!」


 正和が微笑み、周りの皆も笑顔で拍手した。


「これ、隼人へのプレゼントだよ」


 正和が隼人に小さな車の玩具を渡すと、隼人は目を輝かせてそれを手に取った。


「ありがとう、パパ!」


 隼人は嬉しそうに車を転がし始めた。


「隼人、こっちも見てごらん」


 恵子が隼人を招き、テーブルに並べられた色とりどりのプレゼントを見せた。


「みんなが隼人のために持ってきてくれたのよ。」


「わあ、いっぱいだ!」


 隼人は興奮してプレゼントの山を見つめた。


「この包み、開けてみる?」


 正和が一つのプレゼントを手に取る。


「うん!」


 隼人は元気よく答えた。


 包みを開けると、中からはカラフルな積み木セットが出てきた。


「すごい、積み木だ!」


 隼人は喜びの声を上げた。


「これでいっぱい遊べるね」


 恵子が言う。


「やる!」


 隼人はすぐに積み木で遊び始めた。


「隼人、見て。これはパズルだよ」


 親戚の一人、松岡達也が別のプレゼントを渡すと、隼人は興味津々でパズルを手に取った。


「どうやってやるの?」


「まず、このピースをここに合わせてみて」


 正和が優しく教えると、隼人は真剣な表情でピースをはめ込んだ。


「できたよ、パパ!」


 隼人が完成したパズルを見せる。


「すごいね、隼人。よくできたね」


 正和は褒め称えた。


「隼人、これからもたくさんのことを学んで、いっぱい遊ぼうね」


 恵子が微笑んで言う。


「うん!」


 隼人は元気よく答えた。


 1985年、隼人は初めて「パパ」「ママ」といった簡単な言葉を話すようになった。彼の言葉の発達は早く、恵子と正和はその成長に驚きながらも喜んでいた。


 ある日、隼人が初めて「ママ」と言ったときのことだった。恵子はキッチンで夕食の準備をしている最中だった。


「ママ、ママ!」


 小さな声が聞こえた。


 恵子は一瞬耳を疑った。


「今、なんて言ったの?」


 隼人に近寄り、優しく問いかけた。


「ママ」


 隼人は再び言いながら、笑顔で恵子の方を見上げた。


 恵子は驚きと喜びで目を見開いた。


「隼人、今『ママ』って言ったの?」


 恵子は確かめるように尋ねた。


 隼人はうなずく。


 「ママ」


 隼人は繰り返した。


 恵子は隼人を抱き上げる。


「すごいわ、隼人!初めて『ママ』って言えたのね」


 恵子は涙ぐんだ。


 その日の夕方、正和が仕事から帰宅すると、恵子は興奮してその出来事を伝えた。


「正和さん、隼人が初めて『ママ』って言ったのよ!」


「本当かい?すごいな、隼人!」


 正和も驚きと喜びを隠せなかった。


「隼人、もう一度言ってみてごらん。」


 隼人は正和の方を向いた。


「パパ」


 隼人は小さな声で言った。


「今度は『パパ』だ!」


 正和は歓喜の声を上げた。


「隼人、すごいぞ!『パパ』って言えたんだね。」


「パパ」


 隼人は再び言い、正和に向かって手を伸ばした。


 正和は隼人を抱き上げる。


「隼人、君は本当に賢いな。これからもっとたくさんの言葉を覚えていこうね」


 正和は優しく言った。


 それからの日々、隼人は新しい言葉を次々と覚えていった。


「隼人、これは何?」


 ある日、恵子が絵本の犬の絵を指さして尋ねた。


「わんわん」


 隼人は元気よく答えた。


「そうよ、これは犬ね。上手に言えたわ」


 恵子は微笑んだ。


 別の日。


「隼人、これが車だよ」


 正和がと車の玩具を見せる。


「ぶーぶー」


 隼人は言って笑った。


「その通り、ぶーぶーだね」


 正和は隼人を褒めた。


 春になると、松岡家は初めて家族旅行に出かけることにした。行き先は近くの温泉地で、隼人にとって初めての遠出となった。


「隼人、今日は温泉に行くよ」


 正和が伝える。


「温泉って何?」


 隼人は興味津々に尋ねた。


「温泉はとても気持ちのいいお湯が湧いているところなんだよ。一緒に入ってみようね」


 恵子が説明する


「楽しみ!」


 隼人は興奮していた。


 車で温泉地に向かう途中、隼人は窓の外の景色に目を輝かせていた。


「見て、パパ!山がいっぱいある!」


 隼人は指を指しながら言った。


「そうだね、隼人。山にはたくさんの木や動物がいるんだよ」


 正和が教える。


「木と動物、見たい!」


 隼人はさらに興奮した。


 温泉地に到着し、宿にチェックインした後、家族全員で温泉に浸かることにした。隼人は浴衣を着せてもらい、初めての温泉に向かった。


「隼人、これは温泉だよ。ゆっくり入ってみて」


 恵子が言うと、隼人は恐る恐る足をお湯に入れた。


「わあ、あったかい!」


 隼人は笑顔を浮かべた。


「気持ちいいだろう?」


 正和が尋ねる。


「うん、すごく気持ちいい!」


 隼人は答えた。


 温泉に浸かりながら、隼人は両親と一緒に楽しい時間を過ごした。


「パパ、温泉ってすごいね。もっと長く入りたい!」


 隼人は嬉しそうに言った。


「そうだね、隼人。温泉は体も心も温かくしてくれるんだよ」


 正和が説明した。


 その後、家族は温泉街を散策することにした。隼人は様々なお店を見て回り、新しい発見に胸を躍らせていた。


「見て、ママ。あのお店にはおもちゃがいっぱいある!」


 隼人は指を指して言った。


「行ってみようか、隼人」


 恵子が笑顔で応える。


「やった!」


 隼人は大喜びでお店に駆け寄った。


おもちゃ屋で、隼人は新しいおもちゃを手に取る。


「これ、欲しいな」


 隼人はつぶやいた。


「それじゃあ、これを買おうか」


 正和が言う。


「ありがとう、パパ!」


 隼人は嬉しそうにおもちゃを抱きしめた。


また、温泉街の食べ物屋台も訪れた。隼人は初めて見る食べ物に興味津々で、


「これ、食べてみたい!」


 隼人はたこ焼きを指差した。


「隼人、これがたこ焼きだよ。熱いから気をつけて食べてね」


 恵子が教える。


「わかった!」


 隼人は言って、一口食べた。


「おいしい!」


 隼人は笑顔で感想を述べた。


 1985年12月5日、松岡家に新たな命が誕生した。隼人にとって、それは初めての弟であり、家族にとっても大きな喜びとなる出来事だった。


 その日の朝、正和は隼人を連れて病院へ向かっていた。


「隼人、今日は特別な日だよ。君に弟ができるんだ」


 正和が言う。


「弟ってどんな人?」


 隼人は目を輝かせて尋ねた。


「もうすぐ会えるよ。とても小さくてかわいいんだ」


 正和が答えた。


 病院に到着すると、恵子は産後の疲れた表情ながらも幸せそうな笑顔でベッドに横たわっていた。正和と隼人が部屋に入る。


「隼人、来てくれてありがとう。君に弟を紹介するね」


 彼女はと優しく言った。


 看護師が小さな赤ちゃんを抱えてきて、恵子の腕の中にそっと置いた。


「これが君の弟の光太(こうた)よ」


 恵子が紹介すると、隼人は興味深げに近づいていった。


「これが光太か……」


 隼人は小さな弟の顔をじっと見つめた。


「触ってもいいよ、隼人」


 正和が促すと、隼人はそっと光太の手を握った。


「小さい手だね」


 隼人は驚いたように言った。


「そうだね、君が生まれたときもこんなに小さかったんだよ」


 恵子が微笑んで言った。


「光太、よろしくね。僕、お兄ちゃんだよ」


 隼人は静かに言った。


 正和はその光景を見て、胸が熱くなるのを感じた。


「隼人、お兄ちゃんとして光太をよろしく頼むね」


 正和が言う。


「うん、僕が守るよ」


 隼人は力強く答えた。


その夜、松岡家は新しい家族の誕生を祝うためにささやかな夕食を共にした。


「今日は特別な日だから、みんなでお祝いしよう」


 正和は言い、テーブルには手作りの料理が並んだ。


「光太、これから一緒にいっぱい遊ぼうね」


 隼人は光太に話しかけた。


「僕が色々教えてあげるよ」


「そうだね、隼人。君が光太のお手本になってくれると嬉しいな」


 正和が微笑みながら言った。


「ママ、光太は何が好きかな?」


 隼人が尋ねる。


「まだわからないけれど、これから一緒に見つけていこうね」


 恵子は答えた。


「楽しみだね」


 隼人は嬉しそうに言った。


 1985年、隼人はまだ幼く、恋愛の概念は理解していませんでした。しかし、家族や親戚、友人たちとの交流を通じて、愛情や友情の大切さを学び始めていました。


 春のある日、松岡家は親戚の集まりに参加するために祖父母の家を訪れました。そこで隼人は初めて同じ年の友人、宮城 春菜という名の女の子に出会いました。彼女は隼人の父の友人の娘で、隼人と同じ年でした。


「隼人、この子は春菜ちゃんよ」


 恵子が紹介する。


「こんにちは、春菜ちゃん」


 隼人は照れくさそうに言いました。


「こんにちは、隼人くん。一緒に遊ぼう」


 春菜はニコニコしながら手を差し出しました。


「うん、何して遊ぶ?」


 隼人は興味津々で応えました。


「おままごとしようよ。私がお母さんで、隼人くんがお父さんね」


 春菜は提案しました。


「いいよ。じゃあ、お母さん、今日は何を作るの?」


 隼人は役に入り込みました。


「今日はカレーを作るのよ」


 春菜が答えると、二人は楽しそうにおままごとを始めました。


「カレー、おいしくできるかな?」


 隼人は木のブロックを鍋に見立てて、笑顔で言いました。


「うん、隼人くんが手伝ってくれたからきっとおいしいよ」


 春菜が答えると、二人は笑い合いました。


 その後、隼人と春菜は一緒に庭で遊ぶことにしました。二人はかくれんぼをして遊び、隼人が春菜を見つけるたびに「見つけた!」と嬉しそうに叫びました。


「隼人くん、すごいね。すぐに見つけちゃうんだもん」


 春菜は感心したように言いました。


「春菜ちゃんも上手に隠れてたよ」


 隼人は照れくさそうに答えました。


 夕方になると、二人は疲れて庭のベンチに座りました。


「楽しかったね、春菜ちゃん」


 隼人が言う。


「うん、また一緒に遊びたいな」


 春菜は答えました。


「また会おうね。僕、春菜ちゃんと遊ぶの大好きだよ」


 隼人は言いました。


「私も、隼人くんと遊ぶの大好き」


 春菜は微笑んで答えました。


 その日の別れ際、春菜は隼人に小さな花を手渡しました。


「これ、隼人くんにあげるね。今日は楽しかったから」


 春菜は笑いながら言いました。


「ありがとう、春菜ちゃん。僕も楽しかったよ」


 隼人はその花を大事に握りしめました。


 このようにして、隼人は初めての友人関係を築くことの楽しさを知り、心に残る思い出を作っていきました。恋愛とは言えないまでも、隼人と春菜の間には純粋な友情と初めての絆が芽生えたのでした。

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