第63話

離宮の前でフェイが待っていてくれたけれど、そこには陛下と王妃様そして王太后様までが一緒に立っていて慌てて挨拶をした。


「会いたかったぞルナ!」


両手を広げて私を抱きしめる気満々の伯父様を押し退けギュッと抱きしめてきたのはフェイ。


「油断も隙もあったもんじゃない」


フェイが睨みながら陛下に文句を言っているがすぐに「お前もな!」と、フェイも父様にまた頭を鷲掴みされて悲鳴をあげていた。

もう!此処をどこだと思っているの!

王妃様も笑っているだけで止めようともしてくれない。

王太后様にいたっては冷笑を二人⋯⋯いえ伯父様も入れて三人に向けているわね。



「賑やかだな、そんな所で騒いでいないで早く中に入りなさい」


あまりにも騒がしかったのかお爺様が出てきてしまった。もちろん隣にはニコニコ笑顔のお婆様が。


「お騒がせして申し訳ございません」


挨拶の言葉を述べる前に、謝罪の言葉を述べることになるなんて⋯⋯は、恥ずかし。


それにしてもお爺様とお婆様は本当に仲良しね。

常に寄り添っているもの。


前回同様今日もお爺様が案内してくれた。

そこは前回の応接間ではなく、手入れの行き届いた庭園だった。


春から夏になろうかというこの時期は色とりどりの小さな花が庭園いっぱいに絨毯のように敷きつめられていた。にも関わらず、キツイ匂いはしない。ほんのりと優しい香り。お婆様のイメージに合わせたような庭が広がっていた。まるで絵本の中に入り込んだかのような素敵な場所に案内してくれた。




「さあ、今日はフェリクスとルナフローラの婚約が結ばれたお祝いだ。おめでとうフェリクス、ルナフローラ」


「ありがとうございます」


「ありがとうございますお爺様、お婆様」


お昼過ぎに集まったこともあり、少し大きめの丸いテーブルには軽食と美味しそうなお菓子が用意されていた。

お爺様の隣にはニコニコ笑顔のお婆様、その隣には王太后様。

そして、ロー兄様、父様、私、フェイ、王妃様、伯父様が座った。


大体話しているのは伯父様。

初めて伯父様に会ったのはデビュタントの挨拶をした時。

あんなに威厳があったのに⋯⋯実際はこんなにお茶目な人だったなんてね。

父様に話を振っても『ああ』とか『そうか』で会話は続かないみたい。

やっぱり今日の父様はおかしい。

そんなことを考えていると、お爺様とロー兄様の会話が耳に入ってきた。


「初めて会うが君がスティアート公爵のローレンスか?」


「はい。ご挨拶が遅れて申し訳ございません。ローレンス・スティアートと申します。今は亡き父の跡を継いで公爵家当主を務めております」


「すまないな退位してからは何年も公式の場に出ていないから情報に疎くてな⋯⋯」


お爺様とロー兄様の会話を聞いているのに集中出来ない。

さっきからフェイは何をしているの?

テーブルで皆から見えないとはいえ私の手を繋いできたり撫でたりと忙しい。

睨んでもニコッて笑顔を向けられると怒れなくなる。


そんな時、使用人がお茶のおかわり淹れに来てくれた。

ちょうど喉も渇いていたいたし、すぐにお茶で喉を潤すために口をつけた。


その時、伯父様の低い声が響いた。


「何を驚いている?」


え?


「お前はもう終わりだ」


伯父様、誰に言っているの?


「と、父様、何かあったの?」


父様に私の声が聞こえていない?


こんな父様を私は知らない。

父様?なぜそんな怖い顔をして睨んでいるの?

だって父様の睨んでいる相手は⋯⋯




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