第62話

意外だ⋯⋯ロイド殿下の涙に心を鷲掴みされたアリーは有無を言わさず強引に迫るかもと思いきや、婚約者の居なくなったロイド殿下を囲む令嬢たちの勢いに圧されて近付くことも出来ないようだ。


「アリーは行かなくていいの?」


「王女のわたくしが行くと彼女たちが遠慮するでしょう?何よりロイド殿下には数多いる令嬢の中から政略ではなくわたくしを好きになって選んで欲しいの」


やだ!アリーが可愛い!

見た目は大人っぽいアリーが頬を染めている姿は王女だとか関係なくまだ17歳の少女だ。


「私はアリーを応援するわ」


「ありがとう。それより離宮に訪問するのは明日だったわよね?」


「ええ。アリーは留守番になっちゃうけれど」


「じゃあ、アイリーン王女の予定がないなら王宮に招待してもいいかな?」と、話の途中でロイド殿下がアリーにお誘いの言葉をかけてきた。


「招待?」


「うん、僕は離宮に招待されていないしアイリーン王女とは仲良くなりたいと思っているから⋯⋯いいかな?」


末っ子だからかロイド殿下は穏やかで優しい性格が口調にも顔にも現れている。

キツめの美形で口も悪いフェイと兄弟とは思えない。


「い、いいわよ。ロイド殿下もわたくしと一緒で暇なのね」


ちょ、ちょっとアリー!

さっきまで可愛いかったのに⋯⋯なんでツンツンした言い方になるのよ!


「ははっ、じゃあ明日の昼過ぎに迎えを出すよ」


「ええ分かりましたわ」


ふぅ~やれやれ。

もっと素直に喜べば可愛いのに。


でも、そんな態度のアリーに怒ることもなく笑顔を見せるロイド殿下は心が広いのね。

そりゃあそうか、あのエリザベスに耐えていたんだものね。


でも、この機会にロイド殿下にアリーの魅力をアピールするチャンスね。

アリー頑張ってね。


次の日またアリーの部屋から『もっと寄せて、背中からも持ってきて』の声が響いていた⋯⋯ありのままのアリーでいいのに、それある意味詐欺だからね。






今は我が家の馬車で父様とロー兄様と一緒に王宮の敷地内にある離宮に向かっている。

ロー兄様はいつもと変わらないのだけれど、今日の父様はいつもと様子が違う。

緊張しているような⋯⋯気がする。


「父様?」


「⋯⋯」


「父様?」


「ん?どうしたルナ」


「何か心配事でもあるの?」


「⋯⋯いや、ルナは何も気にしなくていいよ」


「父様無理していない?」


大丈夫だよってギュッと抱きしめてくれた。

でも父様、やっぱり今日はおかしいよ?

いつも温かいと感じる父様の体温が低く感じるんだもの。


『ルナちゃん気をつけて』あの日のお婆様の言葉が頭に浮かんだ。

今日は私が知らないだけで何かあるのかもしれない。

何かあったとしても父様は私を守ってくれると信じている。だけど父様に守られるだけでなのは嫌なの。

私も父様を守りたい。

ずっと傷ついてきた父様を守りたいのよ。


たぶん今日だ。

お婆様の警告は今日のためだったのだと思う。

身内ばかりの集まりだとはいえ警戒しなければならないということ。

そんなのは悲しいけれど、あの時のお婆様はきっと素面だった。




結果から言うと警戒は無駄になった。

それよりも衝撃だったのは⋯⋯あの人がすべての元凶だったこと。

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