第48話
「ルナ!⋯⋯綺麗だよく似合っている」
当然よ!朝から磨かれギューギューとコルセットを締められもうヘトヘトなんだから。
でも、顔には出さないわ。
隣の部屋でアリーの『もっと寄せて、背中からも持ってきて』って聞こえていたけれど何だったのかしら?
「フェイも素敵だわ」
久しぶりに会うフェイは少し大人っぽくなっていた。王子様なだけはある。
でもフェイの隣に完璧に正装を着こなす父様が居るからか、貫禄と色気はまだまだね。
「お待たせ致しましたわブラッディ様」
そこへアリーが⋯⋯ちょっと、ちょっと、ちょっと!大人っぽいアリーには黒のドレスは凄く似合っているけれど⋯⋯やり過ぎじゃない?『もっと寄せて、背中からも持ってきて』の意味が分かったわ。
「が、頑張ったんだな」
ほら、父様も引いているじゃない。
「アイリーン王女も久しぶりだな」
「ええ、ご無沙汰ですわねフェリクス王子」
そうよね、王族同士ですもの顔ぐらい知っているわよね。
それから私はフェイの乗ってきた馬車に、アリーは父様の馬車に乗って王宮に向かった。
「⋯⋯本当に久しぶりだな」
「ええ、私はフェイに会えて嬉しい!」
「!!⋯⋯俺も!俺もずっとルナに会いたかった」
フェイの照れくさそうにしながらも嬉しそうな笑顔を見せてくれるから胸が小さくドキッとした。
それからは私の学園生活のことや、フェイの仕事のことなど他愛のない話をしていると、あっという間に王宮に着いてしまった。
「フェイ、まだまだ話し足りないわ」
「俺もだ。今度⋯⋯よかったら今度一緒に二人で出掛けないか?」
二人で!男女が二人でお出掛け⋯⋯それを世間ではデートということをついこの間アリーに教わったところだ。
「それはデートで合ってる?」
「そ、そうだな、そうとも言う⋯な⋯⋯嫌か?」
「断るはずないじゃない。フェイと一緒ならどこに出掛けても楽しいと思う!」
「そ、そうか。では行き先は俺に任せてくれるか?」
「うん!私、父様とロー兄様以外と出掛けるなんて初めてよ!」
「俺だってそうだぞ!」
(ルナの初めてのデートの相手が俺って最高じゃないか!)
「よし!学生の夏季休暇は二ヶ月もあるんだ、俺の仕事の休みの日は全部ルナとのデートにしよう」
「私は嬉しいけれど無理はしないでいいからね」
「ああ。では叔父上が乗り込んでくる前に降りようか」
フェイにエスコートされて、父様とアリーに続いてホールに入場する。
もう慣れたけれど視線が痛い。
ロー兄様ともここで合流。
「やっぱりブラッディ様に熱のこもった視線を向ける人は多いわね」
「それを言うならロー兄様もだしフェイもよ」
今は五人で一緒にいるけれど父様とロー兄様とフェイの三人で何やら難しい顔をして話しているから私とアリーはヒソヒソと話しながら周りの様子を窺っているところ。
この後は王族の入場なんだけど、去年もフェイは紹介されていなかったのよね。第二王子なのにいいのかな?自由過ぎる。
「ねえ見て」
アリーが口元を扇子で隠し顎で指す方向にはアリスト様が⋯⋯最近はニヤついていた顔が⋯⋯うん、憎々しげに睨んでいるわね。
「フェイと一緒にいる私にムカつくのでしょうね」
そして王族が入場してきた。
あれ?エリザベスは体調でも悪いのかしら?
顔色があまり良くない。
それにいつもならロイド殿下にベッタリと腕を搦めて自慢の胸を押し付けているのに今日は普通にエスコートされている。
ロイド殿下は安定の"無"だわね。
デビュタントの子たちが王族に挨拶を終えれば次はダンスが始まる。
一曲目はデビュタントの子たちが踊り、二曲目からは自由だ。
「ルナ行こう」
いつの間にかフェイが隣にいてホールの中央に誘導される。
父様もアリーと近くにいるのが目に入った。
結局、フェイ、父様、ロー兄様の順に踊って帰ることになったんだけれど、ホールを退場する時になって父様と同年代の婦人や紳士が優しい眼差しを私に向けていることに気付いた。
きっと年々お母様に似てきている私を通して、過去のお母様を思い出しているのかもしれない。
今はまだ明かされていない父様の相手が誰なのか気付いた人もこの中にいるのでしょうね。
父様の瞳の色を受け継いだ私。
お母様によく似た私。だものね。
まあ、あまり良くない視線を向けてくる人の方が遥かに多いけれどね。
帰ったらフェイとデートの約束をしたことを父様に報告しなくちゃね。
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