第44話



早いもので二年に進級して二ヶ月が経とうとしている。


フェイが卒業してからお一人様の時間になる予定がそうはならなかった。

そう、二年に上がってから変化も少しだけある。

なんと!クラスメイト達と挨拶以外で会話することが増えたことだ。


この学園は家格は関係なく成績順でクラスが決まる。

一人の脱落者もなく、一年の時と同じ顔ぶれでそのまま進級した。

だけどその中に目立つ存在の令嬢が一人。

彼女はカクセア王国からの留学生でアイリーン・カクセア。そうカクセア王国の第二王女なのだ。

背が高く長い手足にスレンダーな体。

真っ直ぐな黒髪に紫色の瞳。父様と同じ色を持つ高貴な彼女は私にとってはとこに当たるらしい。

新学期が始まる前日に、我が家に挨拶に来てくれた。ていうか一緒にここで暮らすことになっている。


「ブラッディ様!お会いしとうございました」


父様と一緒に出迎えるなりそう言って父様に抱きつこうとし思いっきり拒絶されていた。


「⋯⋯相変わらずですね」


「お前もな」


「隣の方が?」


「ああ、俺の命よりも大切な娘のルナフローラだ」


自慢げにそして愛しげに私の髪を撫でながら紹介してくれた。


「まあ!まあ!まあ!無愛想なブラッディ様のそんなお顔は見たことがないわ!」


そう言って興味深げにマジマジと見られると恥ずかしい⋯⋯


「なんって可愛いの!わたしのことはアリーと呼んで!」


「えっと⋯⋯では私のことはルナとお呼びください」


「ええ!ルナ今日からよろしくね。クラスも同じはずよ」


グイグイ来るアリーに慣れない私は少しだけ引いてしまったけれど、さっぱりしていてどこにも嫌味や悪意がないのは分かる。どうもアリーは父様がカクセア王国にいた頃に何とか笑わせようと悪戦苦闘していたようだ。

その日の夜には裏表のないアリーと打ち解けていた。


で、新学期早々アリーがやってくれた。


「ねえルナ?あれはロイド王子よね?」


「ええ」


馬車から降りるとロイド殿下の腕にしがみつくエリザベスと、それを引き剥がそうとするロイド殿下が目に入った。


「ではアレがロイド王子の婚約者のエリザベス嬢で間違いない?」


「⋯⋯ええ」


「見苦しいわね」


思いのほかアリーの『見苦しい』という言葉が辺りに響いてしまった。

それはエリザベスに聞こえたようでパッとこちらを睨みつけてきた。

エリザベスが睨むってことは自覚があるんだ~なんて思っていたら早速噛み付いてきた。


「見かけない方ね。わたくしを誰だと思っていますの?」


「知らないわね。わたくしには朝から男に撓垂れ掛かるような下品な令嬢の知り合いはいないもの」


「な、なんですって!わ、わたくしが下品だと言うの?」


ロイド様~と目に涙を浮かべてまた撓垂れ掛かろうとして「いくら婚約者でも時と場所ぐらいは弁えろ」と、ロイド殿下本人に諌められていた。


「ねえ?ロイド王子?」


「何ですか?アイリーン王女」


「余計なお世話かもしれないけれど、貴方はその若さで人生を棒に振るおつもりなの?何十年も後悔し続けながら生きていくつもりなの?悪いことは言わないわ早く決断した方がいいわよ」


さすがアリー!それよそれ!ここにいる全員が思っていても口に出せなかったセリフそのまんまよ!

上下に頷く人も小さく拍手している人たちもいる。


「⋯⋯そうだね。本人に自覚がないままだと⋯⋯時間の問題だね」


「そう⋯⋯分かっているのならいいわ。わたくしは他国の人間ですものこの国のことに口を出すつもりはなかったの。これは本当よ。口出ししてごめんなさい」


ロイド殿下とアリーの会話の意味が理解出来ないのかエリザベスだけが『え?』『何のこと?』などと首を傾げているが、噛み付いた相手が王女だと二人の会話を聞いていれば謝罪ぐらいはするはずなんだけど⋯⋯分かってないのね。やっぱりエリザベスは馬鹿だった。


その日以来、エリザベスはアリーを見つけると食ってかかるようになった。

公爵令嬢の私が相手でも問題になったのに、相手が王女だろうとエリザベスには関係ないようだ。


もう、王家との婚姻どうこうの前にフォネス伯爵家の没落までそう時間はかからない気がする。




王女なのに裏表もなく気取らないアリーはクラスでも人気者に。

そしていつの間にかクラスメイトたちが私にも声をかけてくれるようになっていた。

彼らからは嫌な気配を感じない。それどころか見守られているような温かいものを感じるのだ。


フェイと過ごしたあの場所は今はアリーと過ごしている。


次にフェイに会えるのはいつになるのかな。

少しだけ寂しいな⋯⋯

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