第3話
「お・ね・え・さ・ま」
また言っている。
先に生まれたのが姉だって馬鹿だから知らないのかな?
それとも妹気分が味わいたいだけなんだろうか?
これを無視すると義母に言いつけるんでしょう?
だから自分の身を守るために返事だけはすることにしている。
「何でしょうか?」
「わたくし、お母様と一緒にお父様に会いに王都に行くの~。いっぱい甘えるんだ~。うふふっお父様はわたくしの欲しいものは何でも買ってくれるの~」
⋯⋯⋯⋯。
言うだけ言って異母姉は義母の元に向かった。
距離があってもそこから聞こえる声は義母のもの。
「しっかりあの子を見張っていなさい!甘やかした者はクビにするわよ!」
ここにも馬鹿がいる。
王都に行くたびに同じことを言うなんて。
ここには私に優しくしてくれる人は一人もいないというのに。
はぁ、ここに来てもう一年は過ぎたわね。
その間に父親がここに来たのは三回。
義母と異母姉は二ヶ月に一度は王都に行く。
その間だけは私の頬が赤く腫れ上がることも背中に痣ができることもない。
だって、私に暴力を振るうのは父親と義母だけだから。
いつも山のようにドレスや宝石を買ってきて見せびらかすのは異母姉。
義母に似て派手なドレスばかりで羨ましいと思ったことは一度もない。それどころか使用人服しか持っていない私でも恥ずかしくてあんな派手なドレスもゴテゴテした宝石も身に着けたいとは思わない。
それにしても、義母の目がないのだから食事ぐらいちゃんとした物が食べたい。贅沢は言わない。使用人と同じ物でいいのに⋯⋯
お風呂だって入れなくていいから温かいお湯を使わせて欲しい。
あの義母は宣言通り、本当に死なない程度に食事を与えてこき使う。
暴力だって顔は手で叩き、体は足で蹴る。
足で人を蹴るなんて貴族の夫人としてどうなの?
鞭など道具を使われないだけマシか。
あと言葉使いもお母様と比べると品がない。
まああんな人達のことはどうでもいいから、お腹が空いた。
いつか苦しくなるぐらいお腹いっぱい食べたい。
水でお腹を膨らますのはもう嫌だ。
それから一ヶ月程であの二人が帰ってきた。今回も買い物三昧だったのだろう。乗ってきた馬車の他に二台の馬車から使用人総出で荷物を運んでいるから。
毎回、こんなに買い物をしていて大丈夫なんだろうか?
この本邸から出たことはないけれど、この領地は私が知らないだけで潤っているのだろうか?
⋯⋯私が気にかけることはないか。
どうせ、この家を継ぐのはエリザベスかその夫になるだろうし、もしかしたら異母弟が生まれるかもしれないしね。
私は⋯⋯このまま使用人として一生こき使われるのか、それとも政略結婚の駒にされるのか⋯⋯父親次第だろう。
でも、成人したらこの家を出て行くつもりだ。
それまで生きていられればの話だけど。
「フローラ!フローラ!早く来なさい!」
ふう、帰ってくるなり呼び出すのもいつものことね。
あの男の前では本性を隠して猫を被っているからか、ストレスが溜まるらしい。
それを私で発散するために呼び出すのはやめて欲しい。
「お呼びで「アンタの声は聞きたくない!って言ったでしょ!お前は喋るな!」
バシッ
ここにも使用人が何人も居るというのに⋯⋯本当に汚い言葉。
慣れたものでみんな聞こえない振り、見て見ぬふり。
そうよね。止めたりしたら次は自分に降りかかるかもしれないものね。別に恨んだりしない。誰だって我が身が可愛いもの。
あ~あ、しばらく仰向けで眠れていたのにな、今晩からまたうつぶせ寝になるのか⋯⋯
気持ちで負けない!って、ずっと強気で頑張ってきたけれど、もう心が折れそうだ。
誰でもいいから、ここから助け出してくれないかな⋯⋯
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