それ絶対うまいやつだろ!?~死ぬ間際におにぎり食べたいって願ったら、TSしておにぎり作る能力つけらて異世界へ放り込まれました~

茜空

第1話:死ぬ前にもう一度食べたいもの

 人間、死ぬときはあっさり死ぬもんだな。


 病室で朦朧とする意識の中、俺はそんなことを考えていた。


 俺はしがないアラフォーサラリーマンだが、このたび流行りの病に見事にかかり、持病もちというのもあってあっという間に病状が悪化。現在に至る。


 今頭をめぐるのは、懐かしい故郷の風景や思い出。これ、たぶん走馬灯ってやつじゃないかな。


 ふと、その頃よく母さんが握ってくれたおにぎりのことを思い出した。


 俺の故郷は新潟、米どころの本場ともあってか、思い出補正か、あれはすごく美味しくて大好きだった。懐かしいなぁ。


 たまに話題になる「最後の晩餐は何が食べたい?」という質問。その答えが今出た。


 ああ、最後にもう一回、おにぎりが食べたかったなぁ。


 そんな思いを抱きながら、意識を手放す寸前、


「そ、その願い、か、か、叶えてあげるんだな」


 そんな声が聞こえた気がした。

「き、ききき、気のせいじゃ、ないんだな」

「へ?」


 突然意識がはっきりした。

 そんで目の前には、短パンにランニングシャツ姿で、リュックサックを背負ったおじさんがいた。


「え?」


 俺は狼狽した。

 いやだって、あの状況で意識がはっきりするのもおかしいって思うのに、いきなり目の前に妙なおじさんが現れて「願いを叶えてあげる」とか言われても。 


「なな、なんだかすごく挙動不審、なんだな」

「いや、あんたにだけは言われたくない」


 おじさんいきなり失礼すぎやしないか?つかあんたもたいがい怪しいからな?なんなら俺の挙動不審はあんたっていう不審者とよくわからん状況を見れば真っ当な反応だから。


「ま、まあそれはどうでもい、いいんだな」

「どうでもいいんかい」


 自分から振ったくせに。

 ていうか。


「失礼ですけど、どちら様ですか?」


 そう、このおじさん誰なんだよ?

 俺は怪訝そうに相手を見る。


「ぼ、ぼぼぼ、ボク?ボクはか、かかか、神様、なんだな」

「神様ぁ?」


 裸の大将の間違いでは?

 いや、だってフォルムが完全にそれだもの。

 見た目のインパクト強すぎるもの。

 とにかく怪しい。怪しすぎる。

 変な黒い怪しいノートでも拾ったんだろうか?

 個人的見解かもしれないけど、そもそも自分のことを神とかいうやつに碌な奴はいない。

 勝手に神を名乗るすごい痛い奴か、変な宗教の勧誘か、何をするかわかんないパルプンテみたいなやつか。


「し、し、信じられないのも、む、無理はないんだな。だ、だから、う、う、後ろを見てみるんだな」

「後ろ?」


 そう思って後ろを見てみる。


「ば、馬鹿が見るー、なんだな」

「ヲイ!」

「じょ、冗談なんだな」


 まったくユーモアセンス溢れる自称神様で!

 と、ちょっとイライラしつつ後ろを向くと、そこにはベッドでコードがいっぱいつけられたがりがりのおっさんが。そこに看護師らしき人たちとお医者さんっぽい人たちが修羅場っていた。

 それをみて自分が今病院にいることを思い出した。

 それにあのおっさん、どっかでみたと思ったら、たぶんあれは俺だ。やせこけてるけど間違いない。鏡で何度も見てたんだからそりゃあ見覚えあって当然だわな。


「そっか、俺は死んだんだな」

「そ、そそそ、その通り、なんだな」


 なるほど、今の俺は幽霊で、あのおっさんは俺を迎えに来た神様だったわけだ。


「な、なんかすごく落ち込んだんだな。し、死んだ自分をみたからむ、むりもないんだな」


 いや違う。確かに自分の死は辛いし悲しいけど、あんな状態だったからある程度覚悟はしてたことだ。

 まあそれでもショックはショックだから影響は受けてるけども、メインの理由はもちろん別にある。


 こういう時のお迎えって普通、美人か美少女の天使とかが定番じゃないかなぁ!?

 それがなんでメタボ気味のおじさんなんだ!


「き、気持ちは分からないでもないけど、し、死後のお迎えはい、いろんなパターンがあ、あるんだな」

「あ、ごめんなさい、声に出てましたか」

「き、気にしてないんだな。さ、さ、さっきも言ったけど、き、気持ちは分からないでもないんだな。うん」


 うーん、俺、おじさんにかなり失礼なこと言ったのに本当に気にしてない様子。なんかこ、こ、心の広い人、もとい神、なんだな。

 いかん、喋り方が映った(笑)


「そ、それにき、君は、運がいいと、お、思うんだな」

「運がいい?」


 死んだのに?お迎えがおじさんなのに?(まだ根に持ってる)


「ぼ、ぼぼぼ、ボクは神様だから。君の願いをか、かかか、叶えてあげられるんだな」

「願い?それってなんでもですか!?」

「待って。お、お、お、お、落ち着くんだな」


 おっと、食い気味になってたらしい。反省。


「ふぅ。さ、さすがになんでも、は、む、無理なんだな。ぼ、ボクが叶えてあげられるのは、き、君が死ぬ間際に願った、お、おむすびが、た、たたた、食べたいっていう、願いなんだな」


 あ、そういえばそうだった。

 そっか、そのためにこの神様は俺のところに来てくれたんだ。

 なんだ、やっぱりいい神様じゃん。


「そ、そ、そんなわけで、行ってらっしゃい、なんだな」

「は?うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 神様がいきなり謎の行ってらっしゃいを告げた途端、俺は突然ブーストのかかったサイバーなフォーミュラに乗せられたような鬼加速で何処かへ飛ばされた。

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