デキる部下
釜瑪秋摩
第1話 デキる部下
私の名前は、
年齢は五十二歳。
とある企業の部長職についている。
今日は新人部下の
既存の取引先を持っていたその企業は、最近になって仕事量が増え始めたこともあり、新規開拓を考えていたらしい。
「ずっと通っていた甲斐がありました~」
そう言って喜ぶ木村くんは、社に戻るとすぐに新たな資料をまとめ、昼食もそこそこに、また出ていこうとする。
「木村くん、そんなに急いでどこに行くんだい?」
「オレ、今、もしかしたらですけど、すっっっごくノッてるかもしれないんで、これからまた、数社回ってきます!」
「そうか? でもまぁ、あまり無理はしないように」
「大丈夫です! チャンスは最大限に生かす、それがオレの主義なんで!」
意気込んでいる木村くんのそばにいた
「木村くん……資料、最新のヤツをちゃんと持った?」
「もちろんです!」
「そしたら、こっちの資料と、この資料も持っていくといいよ」
柿崎さんは、デスクトレイの中から、商品のシリーズが違う資料を数種類、木村くんに渡した。
「えっ? とりあえず最新のラインナップがあれば――」
「柿崎さんのいう通り、持っていくほうがいいね。比較材料になるだろう? 先方の予算の関係もあるしね」
「あー、なるほど!」
「木村くん、提案とはいつも二手三手先を考えて行うものだよ」
ニヤリと笑う柿崎さんは、木村くんの肩をポンポンと叩くと、そう言って送り出した。
張り切って出掛けていく後ろ姿が頼もしくみえる。
「いいねぇ、若いというのは……」
「なにを言っているんですか、部長だってまだまだお若いですよ?」
「いやいや、柿崎さんや
昔は自分でも熱心に取引先へ提案をしに出掛けたり、新規開拓で飛び込み営業もしたけれど、今はそういう時代ではなくなってきている。
自分が木村くんと同じ歳のころより、仕事のやり方は大変なんじゃあないか、とも思う。
「今日のところは、木村くんと私がいただいちゃいましたけど、いつも部長には癒しをいただいていますよ」
フフッとまた含み笑いをして、柿崎さんは自席に戻り、仕事を再開している。
彼女の言う癒しというのが、なんのことなのかわからないけれど、嫌な気持ちにさせていないのなら、それでいい。
このあと木村くんからは、提案がうまくいったと三度も連絡が入った。
本当に良く頑張る子だ。
ひと息つこうと、休憩室でコーヒーを入れていると、外出をしていた小松さんも戻ってきたらしく、柿崎さんと一緒に休憩室へやってきた。
「部長、お疲れさまです」
「お疲れさま」
「木村くん、うまくやれたみたいですね?」
「そうらしいよ。柿崎さんのおかげで、さらにできるようになったな、木村くん」
二人はまた、いつものように声を抑えて笑う。
私はまた、なにかのツボを押してしまったらしい。
「今回は、木村くん、大活躍だったみたいですね?」
「でも、締めはやっぱり部長ですけど」
笑い合う二人を残し、私はこれから戻るであろう木村くんが困らないように、書類のチェックをするため自席へと戻った。
-完-
デキる部下 釜瑪秋摩 @flyingaway24
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