第50話 スノウ嬢
王太子殿下や叔母さまにあたる王太子妃殿下からよく聞かされていたのがカルバーノ伯爵家のセオドアのお話でした。
セダム叔父さまからも太鼓判をもらうくらい優秀な少年は家格からいえば公爵家の私が嫁入りするには不十分なのですが、どうやらカルバーノ領は目に見える家格と何かが違うらしいのです。
そんなセオドアが王都に初めて来る上にお茶会で婚約者を決めると聞いてエルスト公爵である父が色めき立ち、母は必ず射止めなさいと力強く言いました。
ユーフォリビアの姫である母が父に嫁いだのはカルバーノ伯爵夫妻のおかげらしいです。
カルバーノとユーフォリビアが商取引を始め、冷戦状態だったニ国が手を取り合える最初の窓口を作ったから、お母さまはお父さまと結婚出来たのだとか。
何度も念押しされましたが、家格としては私の嫁ぎ先はアルバート殿下ではないのかしらとずっと思っていたのです。
よく王宮で遊んでましたし。
両親に連れられてカルバーノのタウンハウスにやって来て驚きました。
私が生まれる前に水道の設備とか道路の仕組みを作ったのはカルバーノ伯爵だったらしいのですが、タウンハウスはカルバーノらしく最新の設備がたくさんありました。
そもそも門が自動で開くってなんですの?門兵や門番が開くものではないのですか?
通された先に居たのは赤い髪の優しそうな美しい少年でした。
何を話したのかよく覚えていませんが、我先にと会話に割り込む他の令嬢を諌めたりしていると、セオドアから薔薇園に誘われました。
「僕とでは、家格も違うし今のように王都で生活は出来ないけど、君はそれでいいのかな?」
そう穏やかに問われます。
責めているわけでもなさそうです。
「君ならアルバートの方が合う気がするんだけど」
「アルバート殿下はデイジー嬢と結婚したいのでは?」
「ん、多分無理だね、アルバートはどうか知らないけどデイジーは頷かないよ」
「な、何故ですの?アルバート殿下はとても素敵な方なのに」
「王妃になれば気軽にカルバーノへ来れないでしょう?」
どうやらカルバーノの子どもたちはカルバーノから離れたくないようです。
金糸の髪に意志の強そうな紫の瞳をしたデイジー嬢を思い浮かべます。
「君は王妃になりたくないの?」
そう問われて考えてみます。
オフィリア叔母さまのように王宮で貴族相手にアルバート殿下と生きたいかと、嫌ですね。
どう考えてもアルバート殿下のために叔母さまみたいに身を粉にして彼方此方に気を遣いながら生きる私が想像出来ないし、私の隣にアルバート殿下?いや、ないわ。
なんかわかんないけど、ないわ。
「……王妃はわかりませんが、アルバート殿下はないですね」
「ちょっと、え?アルバートは駄目?」
「殿下は友人には良いのですが」
ああ、とセオドアが困ったように笑います。
ふと真面目な顔をしたセオドアにどきりと胸の奥が弾みました、苦しいような嬉しいような。
セオドアは暫く来た道を見て、近くにあった赤い薔薇を一本手折りました、棘を丁寧に弾いて私に差し出します。
「僕と一緒に将来カルバーノを今以上に誰にも住みやすい領地にするために並んで歩いてくれるかな?僕は君がいい」
私は差し出された薔薇を手に取り「はい、私もセオドアが良いです」と答えました。
その瞬間、今までの取り繕った顔から年齢らしい笑顔を見せて「ありがとう」と言ったセオドアのことを帰ってから両親に何度もお話ししました。
顔が!顔が良いんですの!
冬になるといつもタウンハウスで過ごすのですが、今年はカルバーノ領に行くことになりました。
カルバーノから長距離になるからと馬車が提供されたのですが、何ですの?こんな馬車知りません!
「聞いてはいたけど、フルフラットの車内なんてあるんだねぇ」
呑気なお父さまの声が頭の上でしますが、それどころじゃありません。
しかも、揺れない。
揺れないんですよ、何とかっていうバネみたいなものを組み込んでいるとか。
それに護衛として来てくれたカルバーノ騎士団の団長、女性なんです。
凛々しいお姿にうっとりしていたのですが、リリアンとアスターのお母さまというではないですか。
「女性騎士というだけでもこの国では珍しいのに騎士団長とは、ユーフォリビアでもありませんがカタリナさまは王立学園の剣技大会で優勝されたほどの腕前だとか」
「ああ、私が在学中だったからね、凄かったよ自分よりずっと背の高い大きな男相手にまるで子ども扱いだったからね」
馬車の中で両親が話すのを聞いているうちにカルバーノ領が見えて来ました。
「あ、あの動いてる箱はなんですの?あの山に見えているあれは本で見た魔塔に見えるのですが?えっとここは王都ですの?」
戸惑いしかありません。
王都にも路面列車は走っていますがもっとこう見窄らしいというか、見た目が全然違います。
街を抜けて丘を進むとびっくりするほど大きなカルバーノ邸が見えて来ました。
「姉上たちが来たりするから建て直したらしいんだよね」
「うちの領地のお屋敷より大きくありませんか?」
びっくりしているうちにカルバーノ邸に着きました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます