第11話 兄と弟と義弟と

 予定通り大した問題もなくガーデンパーティを終えて、普段着のドレスに着替えると私はサロンに向かった。

 セバスに案内されて入ったサロンは煌びやかだった。

 「眩しいわね」

 「うわぁ逃げたい」

 背後の声に振り返ればサミエルが苦笑いをしている。

 私に気付いたクリスフォードが慌てて席を立ちソファに手を引かれて隣に座ると、反対側にサミエルを座らせた。

 正面にいる王太子と公爵令嬢が苦笑を浮かべてそんなクリスフォードを見ている。

 「元気そうで安心したよ」

 「ああいや、オフィリアいやエルスト公爵令嬢、改めて謝罪したい」

 「あっ、待ってクリスフォードさま、謝らないでください」

 エルスト公爵令嬢が立ち上がり頭を下げようとするクリスフォードを制した。

 眉尻を下げた公爵令嬢は王太子と顔を見合わせて「ふぅ」と息を吐いた。

 「兄さん、兄さんが態とこうなるように仕向けたことぐらい、私もオフィも知ってるんですよ」

 王太子の言葉にクリスフォードが戸惑いがちに瞳を揺らす。

 膝に置いた手を白くなるまで握っているクリスフォードに私が手を乗せた。

 反対側ではサミエルがクリスフォードの背中をポンポンと軽く叩いた。

 「知ってた?」

 「大体あの手の魔道具なんて王族には効果がないからね、それにその二人も多分気付いてるんじゃないかな」

 私とサミエルを交互に見たクリスフォードが肩を落とす。

 何度か口を開きかけては言葉にならないらしいクリスフォードを待っていると王太子が立ち上がった。

 「レストルームを借りたいんだが」

 「あ、私も少し」

 サミエルがセバスに合図を送るとセバスが二人を案内するために先導してサロンを出て行った。

 

 「な、な、な、な、な!なんだ!なんだあれは!」

 ドタドタとした足音がサロンまで響き勢いよく扉が開かれた。

 「あ、なんかこれデジャヴ」

 「懐かしいわね」

 「私の時もこんな感じだったのか」

 興奮気味に詰め寄る王太子と公爵令嬢に私たち三人は小さく笑ってしまう。

 「あれは!なんだ!兄さん!」

 「ここに来るまでも馬車から色々見ていたけど、あれは」

 「ちょっとちょっと!詳しく!」

 「二人とも落ち着いて」

 クリスフォードが掴みかかりそうな王太子を押し留め、サミエルが公爵令嬢の手を取りソファまでエスコートする。

 よく出来た義弟だわ。

 「仕組みとかそういうのはね、レストルームに関しては私がここに来た時にはこうだったから」

 「ならカルバーノ子爵!」

 「ふふ、秘密です」

 「え?」

 「冗談ですよ」

  私から引き継いでクリスフォードが上下水道の話を聞かせる、クリスフォードがわからない部分はサミエルが捕捉しているので私の出番は無さそう。

 まあね、そろそろこの衛生環境を広めたくはあったのよ。

 だっていくらこの領地で疫病を予防していたって王都があれじゃあねえ。

 クリスフォードの話を王太子が熱心に聞いている、その横から公爵令嬢が口を挟んだ。

 「今日着ていたシルクは……」

 「オフィリア!矢張り君ならあのシルクの良さがわかると思ったよ!あれはサミエルが見つけてきた最高級のシルクなんだ!」

 グイッと身を乗り出しサミエルを指しながらクリスフォードが気色ばんだ。

 「え?ちょっとちょっと落ち着いて義兄さん」

 サミエルも困りました。

 「謙遜することじゃないよ、サミエル!あのシルクを見つけた君の先見の目もそうだが、彼らと定期的な取引に漕ぎつけた交渉力も素晴らしいんだから」

 サミエルが顔を赤くして手で押さえている、クリスフォードは公爵令嬢に例の絹織物の良さとサミエルについて随分と熱を持って話している、そう言えば絹織物の販路を作る時に二人で色々相談していたわね。


 そろそろ助けるかなと思った所で王太子が割って入った。

 「ねえ、兄さんの弟は私なんだけど」

 おや?

 「随分とサミエル君と兄さんは仲が良いんですね」

 王太子の様子が

 「へえ、私は兄さんからそんな風に褒められたことはないのですが?」

 おかしいぞ?

 こめかみに青筋を立てた王太子が冷ややかにクリスフォードを見ている。

 クリスフォードはそんな王太子ににこりと邪気のない笑みを返した。

 「ああ、サミエルには随分と世話になっているんだ」

 照れたように笑うクリスフォードに他意はないんだろうけども。

 「ふぅん、まるで本当の兄弟のようですよ」

 「そう、見えるか?なら嬉しいな」

 ダメでは?サミエル?ちょっと助けて!

 と、サミエルを見れば何故か遠くを見ながら呆然としている。

 逃げたな?

 「王太子殿下は、クリスが好きなんですね」

 そう、私が口に出したところで全員の時が止まった。

 しまった、やらかしました。

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