第4話 選択を迫る私と婿
結局、私の抵抗虚しく元王太子クリスフォード殿下を連れて帰ると驚くサミエルと項垂れて茫然自失したままのクリスフォードと共にサロンに集まった。
「というわけで、王命でクリスフォード元王太子殿下と結婚することになったの」
「いや?いやいやいや?意味がわからないよ?」
サミエルの戸惑いもわかる、何より私が一番意味がわからない。
押し切られる形でその場で国王陛下の承認を得て既に入籍を済ませてしまっている、条件として私が突きつけた内容は陛下にも受理されている。
今からこのポンコツ元王太子殿下にそれを説明しなければならない。
改めてクリスフォードを見る、金糸の真っ直ぐ伸びた髪を肩で揃え新緑の瞳のクリスフォードは如何にも王子さまといった風合い、整った顔と上背のある体躯もあり学園では人気があった。
成績も常に首席を争うほどには良く、特進クラスのリーダー的な存在でもあった、男爵令嬢と知り合うまでは。
その後の卒園までのクリスフォードは酷いものではあったが、それも一種の麻疹みたいなものだったのかもしれない。
「殿下、少し大切な話があります」
「私はもう殿下ではないよ」
少し顔をあげ、目を伏せたまま自重気味に笑って答えるクリスフォードは儚く見えるし、可哀想ではあるけれどそういう感傷は後にしてもらいたい。
泣きたいのは巻き込まれて将来を王命で殴られた私なのだから。
「ではクリスフォードさま」
私はクリスフォードを真っ直ぐに見つめました。
「選択してください、このまま私と婚姻関係を続けていくか、三年間白い結婚を続けて後々離縁するのか、離縁の許可は既に陛下と貴族院から取っています」
私の言葉にクリスフォードが逸らしていた目をようやく私に向けて目を見開いています。
「り、えん?」
「はい、三年あればそれなりに財も成せるでしょう、その後王都に戻るなりなんなりと」
「私を捨てると?」
「そうは言っていませんよね?」
私が呆れるように言えばクリスフォードが小さく震えています。
小動物かな?
「どちらでも構いませんよ、離縁前提であればその後の資金繰りも協力致しますし、婚姻を真にするのであれば夫として共に領地運営に携わって貰いますし」
クリスフォードはまた俯いて両手を前で組みながら手に力を入れました。
サミエルもクリスフォードの答えを待っています。
「私は」
ポツリと小さく呻くように答えたクリスフォードは私を真っ直ぐに見つめました。
新緑の瞳が私に向けられる頃には彼なりに何かを決心したように見えました。
「ではクリスフォードさま、明日には領地に向かいますので今日はゆっくりお休みください」
私は立ち上がるとメイドを呼びクリスフォードを客室に案内するように指示を出しました。
クリスフォードはまだ何か話したそうにしながらもメイドに促されてサロンを出た、ようやく息をついた私の前に座り直したサミエルがジッと私を見る。
「いいの?義姉さん」
「いいも悪いも王命と言われたらね」
「でも、フィンはどうするのさ」
フィンとは領地で商会を立ち上げた頃に知り合った伯爵家の三男、ずっと商会運営に当たり協力をしてきた彼と、私はいずれ結婚するんじゃないかなと薄ぼんやり思っていた。
ただ、関係は商会オーナーと従業員でしかない。
結婚どころか、そういう色恋の話もしたことはなく周りの雰囲気だけそんな扱いだっただけ。
「何か約束をしていたわけではないからね」
「でも」
「貴族の婚姻なんてままならないものよ、なら最善を尽くしてクリスフォードと良い関係を築く方が前向きでしょ?」
カラカラと笑って私が話せばまだ納得していないサミエルも肩の力を抜いてソファの背もたれへ体を預けました。
「叔父上の独断でしょうか」
「お祖父さまが噛んでるでしょうね」
木っ葉な子爵家であるはずのカルバーノ家にクリスフォードの婿入り先として突然白羽の矢が立ったのは、侯爵である叔父の考えとは思えない。
恐らく手を回したのはお祖父さま、目的はクリスフォードの保護辺りだろう。
それにお祖父さまが手を回したのなら、私に損はないように考えたはず。
私は終わらない推察をやめて立ち上がるとサミエルに笑って話を切り上げました。
「明日は早いからもう休みましょう、おやすみなさい、それとサミエル卒園おめでとう」
「義姉さんも卒園、婚姻おめでとうございます、おやすみなさい」
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