第41話 再熱する想い 5
「大丈夫?」
「大丈夫だよ、お姉ちゃん。ごめんなさい」
「謝らなくていいと言いたいけど、絶対にダメだよ」
「わかってるよ。でも、信さんのことは怒らないであげて…」
「怒らないよ。責任感が強いのは、あたしもわかってるから」
「うん、ありがとう」
家に連れて帰られた私は、お姉ちゃんにそう言葉にして、ベッドで目を閉じる。
不甲斐ない。
私はそう考えていた。
今日の私は浮かれていた。
だから、普段はしないミスをしていた。
それが、薬を飲み忘れるというものだった。
いつもであれば、一曲踊るくらいではなんともないはずの体も、薬を飲み忘れていれば、当たり前のことではあったけれど、うまくできない。
そのせいで信さんにも、お姉ちゃんにも心配をかけてしまった。
いつもなら、飲み忘れていても携帯に連絡が入るのだけれど、マナーモードしていたせいもあって気づいていなかった。
ただ、連絡がつかなかったおかげで、お姉ちゃんは私のところに駆けつけることができたと考えると、それはそれでよかったのかもしれない。
「はあ…」
お姉ちゃんが部屋から出て行ったのを見計らってため息をつく。
何をやっているんだろう、私…
ついついそんなことを考えてしまう。
でも、しょうがないことだった。
だって、私が先週のステージに乱入しなければ、こんなことにならなかったのだから…
今日のことだって、最初から病気を理由に断ればいいものを、どうしてか、私は想いを口にしてしまっていた。
「私がアイドルになりたいっていう未練があるから?」
自分に問いかけるようにして言葉にするけれど、答えはわからない。
でも、できないことだということをわかっている。
薬を飲むことで、一曲…二曲くらいまでならその場で踊ったり歌ったりできるかもしれないけれど、今の私の体はそれ以上ができない。
でも、信さんの目の前で踊った私が感じたことは、やっぱり楽しいということだった。
このまま私は…
そんなことを考えながらも、疲れからか私は眠りにつく。
夜中に目が覚めた。
ピコンという音とともに、携帯に通知が入る。
なんだろうか?
眠たい目を擦りながらも、気になってしまった私は内容を確認する。
通知の内容というのは、一つのメールだった。
差出人は天音だった。
書かれた内容というのは、アイドルオーディションについてというものだった。
オーディション?
なんで私に?
そう考えながらも、内容が気になり目を通す。
わかっていたことだけれど、書かれていたことは次のアイドルを決めるためのオーディション。
アイドルになれるという確約がないけれど、応募された人の中から、選ばれる可能性もあるというものだ。
でも、どうして天音は私にこれを送ってきたのだろう?
理由がわからなかった。
天音の目の前で、私はアイドルにならないと言葉にしているのだから…
このメールにどう返事をしていいのかわからないでいると、メールが再度送られてくる。
「なんだろう、添付ファイルがある…」
一緒に何かが送られてきているのを確認する。
私はそのファイルを指でクリックする。
「♪」
「えっと、えっと…」
「…」
音楽が流れると思っていなかった私は、音量がかなり上がっていることに気づかないでそれをクリックしていた。
だから、大音量で流れてしまい、慌てて音量を最低にする。
ゆっくりと少し重たい体を動かし、部屋の扉を開ける。
なんとかすぐに音量を下げたおかげで、お姉ちゃんたちには気づかれていないようだった。
私はイヤホンを着けると、再度先ほどのファイルを流す。
耳に聞こえるのは、音楽。
歌っているのは、天音だった。
知っている曲。
「これは、クローバーの初めての曲だね」
曲の名前は〝幸せはすぐそこにある〟というものだったはずで、内容も普段は気づかないような、小さなことも気づくことで、それは小さな幸せとなるという風な意味が多くある曲だった。
落ち込んでいるとき、誰かを励ましたいときに聞く曲として、今でも人気があり、クローバーというグループがしていることである、みんなを少しでも幸せにするというキャッチコピーのもとで最初に生まれた曲で、今でも多くの曲は応援だったり、感謝だったりを表しているものになっている。
その曲を私に向けて送ってきたということは、なんとなく言いたいことはわかった。
私にオーディションを受けてほしいということなのだろう。
だから私はイヤホンを外す。
だって、私には無理なのだから…
「アイドルになれる人は、いいよね」
私はそう言葉にすると眠りにつくのだった。
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