第37話 再熱する想い 1
「綺麗、そしてカッコいい!」
「ありがとう」
衣装を着こなした信さんを見た私は、素直にそう感想を述べていた。
そんな私たちがいるのは、どこかのスタジオだった。
ここにいるのは、信さんともう一人いる。
「久しぶり、幸來ちゃん」
「お久しぶりです」
「もう、そんな堅苦しいあいさつをするのはダメだよ、メだよー」
そう言ったのは、ノエさんだった。
顔の前でバツを指で作る仕草を見て、相変わらず可愛いと思ってしまう。
ノエさんは、お姉ちゃんが所属するシノの一人であり、シノとして活躍しているときも何度か、お姉ちゃんが家に呼んだこともあり、私とは顔見知りだった。
だから、畏まって挨拶をする私に、そんなことを言ってくれたのだろう。
いつも通りのノエさんを見て、安心していると、信さんがため息をつく。
「お姉ちゃん、メイクの途中じゃないの?」
「そうなんだけど、幸來ちゃんが見えてね。嬉しくてつい抜けてきちゃったんだー」
「それなら、挨拶は終わったでしょ?早くしないと、写真撮れなくなっちゃうよ」
「わかってるもん。愛しの妹と撮れるんだから、すぐにしてもらってくるね」
ノエさんは、その言葉とともに戻っていく。
「もう、本当に…」
呆れてそう言葉にする信さんには、悪いけれど、私は噂になっていたことが本当だということに、アイドルファンとして驚いていた。
ここにいる、信さんとノエさんが姉妹ではないのかということは、前々から一部のファンの間では、かなり噂をされていたことではあったけれど、事務所が公式で言っていないということもあるのと、信さんとノエさんのお互いがそのことに触れなかったため、どうなんだろうとファンの間では、ムズムズとしていた内容ではあった。
それをこのタイミングで前もって知れるというのは、感無量以外の言葉はなかった。
ただ、そこで気になることがあった。
「結局、私はどうしてここに連れて来られたのでしょうか?」
「車に乗ったときに、言いましたよ。アイドルの生活を見てみませんかと」
「そうなんですが…」
確かにアイドル二人が目の前で喋っているというだけで、普通ではありえない体験をしている。
そんなことは私でも、わかっている、
ここにいる人たちというのも、大きな板を持った人だったり、カメラを構える人、メイク道具を持った人など、私が生涯出会うことは絶対にありえないはずの人たちがいるということだけは、わかっていた。
でも、わかったからといって、それ以上の感覚というものはなかった。
感じたのは、場違い感だけだろう。
今は信さんがこの場にいるから、知り合いだと思われている。
そうじゃなければ、この場所にいられる自信というのは全くというほどなかった。
何も言わないまま、気づけば時間がたっていた。
「よし、やろっか」
ノエさんの、明るく元気な言葉によって、この場が動きだす。
一人一人が、動きだす。
中心にいる信さんとノエさんを引き立てるようにして、多くの人たちが動くということに驚きと興奮があった。
そんな中で、二人はというと楽しそうにしている。
楽しそうにしている信さんとノエさんを見て、周りも楽しそうにしている。
連鎖していくのを見て、私はすごいとしか言葉が出てこなかった。
「私が見たかったアイドル…」
思わず、口から言葉が出てくるくらいに、二人は圧倒的だった。
二人を見ていた私は、思わず体が動くのがわかってしまった。
楽しいという時間を、自分でも表せたらと思ってしまって…
だから、私のことを見ている人がいるということも忘れて、足がステップを踏んでしまう。
そんなことをしていたからだろう、いつの間にか、私は少しの人に注目されていた。
気づいた私は、動きを止める。
邪魔になったのかもしれないと思い、動くのを止めた。
「あはは…」
愛想笑いでやり過ごす。
ことができるかはわからないけれど、しないよりはいいと思った私は、目が合った人にはそうすることにした。
その後はなんとか、動きたくなってしまう衝動を抑えながら、信さんとノエさんの撮影を眺めることにしたのだった。
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