第5話  特訓の始まり 1

「特訓って…」

「ふふーん、実はいくつかあるんだよね」


そう言いながらも、どれが天音に合うのかを考える。

天音は足の使い方が音痴なのだ。

ということは、私が考えている内容の中でも足を使えるもの…

あれだよね。

私は考えていたことを実行にうつすために、天音の手を取った。


「えっと…」

「大丈夫。まずは師匠である私についてきなさい!」

「そんな急に言われましてもーーー」


驚く天音を連れて私はある場所に向かった。

着いた場所で、天音は本当に不思議そうに聞く。


「それで、どうしてこんなところに付き合わされるのでしょうか?」

「それはね、今からは濡れても大丈夫なものが必要になるからね」

「そうなのですか?」

「うん、そうだよ」


そんなことを言いながらも、現在いるのは水着などを売っている服屋さんだ。

なんでこんなところに来ているかは聞かなくてもわかっていると思う。

水着が必要だからだ。

これから行う特訓にはかなり重要になってくるもので、決して私が天音の水着姿を見たいとかそういうわけではないということは先に言っておく。

決して違うからね。


「でも、それなら、私はこういう動きやすいものがいいのですが…」

「うーん…これは…」


そこで天音が手に取ったのは、スポーツタイプの水着だ。

普通であれば、もっと露出のある水着を着させたいと思うかもしれないけれど。


「いいよ。私もお揃いのものにしておくね」

「はい」


そう、スポーツタイプで問題ない。

理由?

そんなものは簡単だった。

天音ほどの可愛さのアイドルが今後有名になるということがあれば、普通に肌が露出するような水着を着る機会は多くなってしまう。

だからこそ、私はこう、普段着ないであろう、むしろ肌の露出が少ない水着をむしろいいと思った。

決して私の趣味ではない。


「一応、試着もしないとね」

「そうですね」


ということで、先に天音が試着をしたのだけれど…


「おふ、肌しろすぎんだろ…」

「え?」

「いえ、なんでもありません」


さすがに心の声を素直に言い過ぎたことに後悔をしながらも、私はその姿を舐めるように見る。

だって、こんなにきれいな子の水着姿だよ。

目で見て、心の目でも見て、そのまま永久保存ってやつだよね。

私も女子だからね、こういうときに女性をじっくり見て、犯罪じゃないと言われることがないのはよかったとししか思わない。

ただ、そんななめるような私の視線に気づいたのだろう。

さすがに見られ続けるということに対して、恥ずかしさを感じたのか、天音は手を胸の前でくむ。


「あの、さすがにジロジロとみられるのは…」

「そうだよね。ごめんね。どう?」

「はい、とくに気になるところですが、私はありませんね」

「そっか、それじゃ次は私だね」

「はい、すぐに着替えさせてもらいますね」


ということで、今度は入れ替わりで私が着替える順番になる。

もぞもぞといろいろなところを調整して…

うん、できた。

ただ、キツイ…

前までこのサイズでいけたはずなのにな。

うーん、天音に見てもらった反応で決めてみようかな。

それがいいかな。

そう考えた私は、試着室を開ける。

すぐに天音の視線が…


「ゴクリ…」

「天音?」

「いえ、その小さくはありませんか?」

「やっぱりそう思うかな?」

「はい」

「もう一つ大きいのとってきてくれない?」

「はい」


そして、ワンサイズ上のものを取りに行ってもらった私は次にそれを合わせる。

どうやらいい感じらしく、きつくはなくて、相応のフィット感があった。

見た目はさっき見てもらったので、変なところはないから、もう一度見てもらうことはしなくても大丈夫だよね。

そう考えた私は、服を元に戻すと、試着室を出た。


「これで決まったね」

「はい」


こうして、買いたいものも買えた私たちはそのままの流れで本当の目的地であるプールに来ていた。


「プール?」

「うん、プールだよ」


ここは屋内にあるプール施設で、私も体調を整えたりするためにもよく使わせてもらっている。

といっても、高校受験があるせいで最近は来れていなかった、だからここに来るのは久しぶりではあった。

だからなのか、それともこれまで着ていた水着じゃないからか、プールに入ると少し私も含めて注目は受けていたけれど、そこはアイドルである美人な天音がいるから注目されているのだろうと思うことにした。

プールに来た目的というのはゆっくりと体に負荷をかけれるっていうところにあるのと、自分の中であるトレーニングを編み出したからだった。

最初からトレーニングをするのではなく、まずは二人である程度の準備運動を終わらせると、ある場所を指さす。


「次は、あそこだね」

「あそこですか?」

「うん」


そこは、この時間では誰も使っていない子供よりも下の幼児用のプールだ。

幼児用プールに入る大人の女性ということもあってか、さっきよりも注目を浴びる。

ということはなかった。

昔には私もやっていたことだったし、今でも足元を確認したいときなんかには、たまに利用したりしている。


「ここにはどういう意味があるのでしょうか?」

「うーん、私のやり方にはなっちゃうんだけどね。私がダンスとかで足の確認をするときにはここを使ってるんだよね」

「そうなんですか…」

「うん、一度やってみるね」


そうして、ワンフレーズを踊る。

バシャバシャと水が飛び散っている。

それを見ても、天音は不思議そうだ。

確かに、私も最初はこんなことに意味があるのかと思ってやっていたことだったけれど、その後にやることで少しはこれの意味がわかった。


「それじゃ、次はここでやるね」

「次ですか?」

「うん、もちろんそうだよ、忘れないうちにね」


次に来たのは、あまり濡れていない場所。

でも、そこでは濡れている場所にはくっきりと足跡が残る。

そして同じようにワンフレーズを踊った。

するとついた足跡。


「どう?」

「完璧ですけど…」

「じゃあ、次ね」


一歩前に出ると、再度同じようにワンフレーズを踊る。

前後に全く同じ足跡がつく。


「えっ、すごい…」

「そう思ってもらえるならよかったかな」

「こんなに同じ場所に足跡がつくものなんですか?」

「うーん、ここまでは私がやっていることだからおかしいかもなんだけど、天音に足りないものの一つにこれがあるんだよ」

「それって、なんなのでしょうか…」

「えっとね、歩幅だよ」

「歩幅ですか?」

「うん、そうだよ」

「動きじゃなくてですか?」

「それは確かに重要なんだけどね、天音の場合、動きはちゃんとできてるからね」

「そうですね。動きについてはあまり悪く言われたことがありませんから…」

「それはわかるよ。私から見ても、しっかりと動きにこだわっているのがわかるからね」


そう、だからこそ遅れる。

天音の動きを見ていて、違和感があるのは左右の動きの大きさだった。

ダンスに限らずになっちゃうことだけれど、左右交互に動きをする場合には特に、同じ勢いで動くというのが、重要であり、単純にダンスをする上で必要になってくるというのを私は知った。

それによって、同じ動きをするということは同じリズムで動くということができるということ。

天音でいえば、右足はしっかりとリズムを取れているのに対して、左足になると、ダンスで動かす位置が右足よりも意識をしているせいか大きい。

そうなってしまうと、左足を動かしたときにどこかリズムのずれが生じて、それが手にも派生して、全体的に動きがぎこちなくなってしまうというものだった。

だからまずは…


「私がこうするんだよ」

「恥ずかしいです」

「何を言ってるの?体で覚えた方がいいんだから、これでいいの」

「わかりました。頑張ってみます」

「うん、やってみよう」


やるのは、天音の後ろから抱き着く形で踊るというもの。

私は触れられて幸せ、天音もダンスを覚えられて幸せという一石二鳥のものだ。


「それじゃ、やるよ」

「はい」


こうして、傍からから見れば、大丈夫なのかと思ってしまうかもしれない練習を行った。

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