六話 嵐の中へ

 サリア二級魔法使いによる、五日間の徹底的な基礎訓練を終えた私たちは、作戦決行を翌日に控えた今日、サントス三級パーティーとの合同訓練を行うことになった。


「はい、ええと、まずは自己紹介から始めましょうか。私はサントス、三級魔法使いです。一応、このパーティーのリーダーを務めています。で、魔法は……」

「声が小さい!」

 隣に立っていた女の人が、脇腹をつつきながら言う。

「ああ、ごめん、ジア。ええと……私の魔法はぁ! 『物体の大きさを変える魔法』です!」

 その後に続いて、他の三人も自己紹介をしてくれた。

「俺はアゼアス。『炎を操る魔法』を使える」

 スラッとした長身で、鋭い目つきをしているアゼアスさん。

「私はニーシャ。『翼を生やす魔法』を使えるから、偵察とかなら任せてね」

 目がクリクリしている童顔で、この場に揃った八名の中では、最も背が低いニーシャさん。

「私はジア。固有魔法は、『固体から糸を紡ぐ魔法』だ。……ああ、それと、三級魔法使いの他に、コイツの妻もやってる」

 みんなが、「えっ!」と一斉に声を上げた。その理由は、ジアさんの頑強そうな風貌と、サントスさんのくたびれた風貌とが、あまりにも対照的だったからではなく……いや、それもあったかもしれないけど、それ以上に、ほとんどの魔法使いは、結婚をしないからだ。

「おー、みんな驚いてるなあ。まあ、私たち夫婦の詳しい話は、君たちの自己紹介が終わってから……」

「えー、ちょっと、やめてくれよ」

 ウキウキした口調で言うジアさんを、サントスさんが止める。私たちは、いつもよりもほんの少しだけ早口で、自己紹介をした。


「……さて、ついに明日か」

 サリアさんの訓練があまりにも辛かったせいで、今夜は、あまり疲れていなかった。作戦の決行が、明日の早朝だということもあり、気持ちが高ぶって、あまり寝つけなかった。

「リカ、緊張してるの?」

 ふと寝返りを打つと、目の前にエネリアの顔があったので、少し驚いた。

「まあね。魔族と相対すると考えると、両親を魔族に殺されたあの日のことを、どうしても思い出してしまう」

「……何歳の時?」

 そう訊いたエネリアの目は、俄かに真剣になっていた。

「十歳の時だよ」

「……そっか」

 元気を失ったように小さく呟き、エネリアはごろんと寝返りを打って、天井を仰いだ。

「十歳まで、一緒にいられたんだ」

「もしかして、エネリアも?」

「うん。お父さんは魔法使いで、私が生まれる前に戦死した。お母さんは、私が一歳の時に、病気になって死んだ。そこからは、お姉ちゃんと二人で孤児院暮らしだったよ」

 重苦しい空気が、私たちにのしかかってきた。エネリアは虚ろな目で、宙の一点を見つめていた。

「……寝ようか」

「そうだね、寝よう」


 久しぶりに身に着けた腕時計を、チラチラと何度も確認する。ゲーイレ奪還作戦の決行の時刻まで、あと一分。サントス三級パーティーと突撃しようとしている西側の入り口からは、瓦礫となって転がっているレンガと、首を切り裂いて自害した男性の死体が見えた。

 杖を構えて息を呑む。残り十秒のところで、サントスさんがカウントダウンを始めた。


「――突撃!」

 一斉に、「身体能力を強化する魔法ニーアソーレ」を唱える。ニーシャさんは、その小さな背中に猛禽類のような翼を生やし、低空飛行を開始した。ランクルは、訓練の成果か前よりも少し大きく強そうになっている、三体のオールスと一羽のミーソンを召喚した。

「このまま、広場まで突っ切ります!」

 サントスさんが叫んだところで、飛び出してきたのは、両腕が巨大化した背の高い魔族。

糸を紡ぐ魔法ジャント

 ジアさんは、近くに転がっていた瓦礫を、何本もの細い糸に変えて、その魔族の首に巻きつけ、切り落とした。

「四級以上の魔族は、私たちで処理するから、君たちは、五級魔族と戦って。この感じ、報告よりも数が多いよ。気を引き締めてね」

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