回想・ブレオ
あの大事件から十五年後、私はミルト村の村長の家に一人息子として生まれた。統一王国時代に王都マロートで役人をしていた父の背中を追い、とにかく勉学に励んだ少年時代、父がよく私に話していたのは、王都マロートでの思い出と、あの大事件の首謀者「ケスファール」のことだった。
――ケスファールは、歴代の将軍の中でも、最も魔法の扱いに優れていたらしい。主な功績として挙げられるのは、東部の街「アルフェロ」で起きた大反乱を、一時間あまりで鎮めたこと。国軍、反乱軍ともに、死傷者を一人も出さずに鎮圧したらしい。
「新たな魔法を発明する技術は、二千年前の戦争の終了と共に、葬り去られた。やろうと思えば、『視界に入った生物を殺す魔法』なんていうものも発明できてしまうその技術は、便利である以上に危険だったからだ。とっくの昔に、その技術に関係する文献は全て焼却され、全人類の記憶から消えた……はずだったが、ケスファールは、その古の技術を使って、『死後、魔族に転じる魔法』を発明した」
父は、ケスファールの話をした後、必ず私に言った。「ブレオ、大切な人を守れる男になれ」と。……だけど私は、その約束を果たせなかった。
州都ガレスで魔法省の役人として働いた私は、父の死と共にミルト村に帰り、父の跡を継いで村長となった。そして間もなく、村で農業を営んでいた幼馴染のニーヒアと結婚し、子宝にも恵まれる。村での暮らしは、子供の頃のように幸せで穏やかだった。
――そんな幸せが壊れたのは、私が七十五歳の時。あの日、村では私の孫オーフェンと、オーフェンの幼馴染で、生まれつき不治の病を抱える少女、エリムの結婚式を挙行していた。
「エリムの病については、オーフェンも知っているだろう。エリムと一緒に生きる時間よりも、エリムを失ってからの時間の方が、ずっと長いということも。それでもオーフェンは……」
「うん。覚悟は、もう決めてる」
その真っ直ぐな目を見て、私と息子夫婦は結婚を認めた。
――真昼の暑さが少し和らいできた頃、二人が誓いの言葉を終えた頃のことだった。村の縁にあった民家が、急に爆発したのだ。ただの爆発ではない。その爆発は、火山の噴火のようにマグマと火山弾を伴っていた。
ただごとではないと、村の魔法を扱える者たちが、臨戦態勢に入る。だけど、私たちの村を襲ってきた魔族にとって、私たちの反抗は児戯に等しかった。
地面が次々と割れる。その間から、マグマが噴き出す。本当は、全身に火傷を負って、目も当てられないような状態になるはずなのに、服も体も綺麗なまま起き上がってくる村の人々。「魔族になる時、受けた傷は完全に回復し、損傷した服も元通りになる」という話は、本当なのだと知った。
――マグマに飲まれて、意識が途切れる少し前。轟音に紛れて聞こえてきた、小さな子供のようなその声は、確かにこう言っていた。
「忙しいのにごめんね、遊びに付き合わせちゃって。僕はカムル。この前、遊んでくれたお兄さんによると、『
十凶とは、殺した人数や固有魔法の凶悪性などを勘案して、魔法省が選んだ十体の魔族のこと。全世界に二十一人しかいない一級魔法使いが、四人集まってやっと勝つことができるとされている魔族たちのことだ。
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