ソーテリア

てゆ

プロローグ この世界について

 遥か昔、この世界に存在していた五つの種族は、覇権を求めて大戦争を起こしていた。戦争は混迷を極め、三百年近く争い続けていたが、今から約二千年前、中央に存在していた古代メルシア人の国、メルシア王国の都「マロート」に生まれたある男によって、状況は大きく変わった。

 その男の名は、「キロトール」。後に「魔法の父」と呼ばれる人物である。


 キロトールが発見し、基礎をつくり上げた魔法は、「ソーテリア」とも呼ばれる。これは、古代メルシア語で「奇跡」という意味の「ソーテル」を語源とする言葉である。彼は、十歳の時にソーテリアを扱えるようになり、その性質や基礎的な理論を研究して、三十歳になる頃には、現代まで続く魔法学の基礎をつくり上げた。

 ちなみに、キロトールが定義する前のソーテリアは、「神の力」と呼ばれ、人々に崇拝されていた。その力に慢心せず、本質に辿り着こうとしたからこそ、キロトールは「魔法の父」と呼ばれるに至ったのである。


 ソーテリアは、人の体に宿っている活力を元手とする。よって、本来は誰にでも扱えるはずなのだが、活力を魔力に変換することに才能が必要で、その才能は、古代メルシア人の中の少数しか持っていなかった。

 この「古代メルシア人の中の」というのが、重要なのである。簡潔に言うと、人類の常識を覆す力であるソーテリアは、古代メルシア人にしか使えなかった。


 「無間地獄」と称された戦争は、キロトールの功績によって、瞬く間に幕を閉じた。もちろん、結果は古代メルシア人の圧勝。メルシア王国は、この世界を統一し、「血の流れない時代」と呼ばれる平和な時代をつくり上げた。

 古代メルシア人たちは、負けた他民族を虐殺するような真似はしなかったが、それでも他民族の人々は不可抗力で少なくなっていき、自然に淘汰されていった。


 血の流れない時代は、千年経っても終わらず、この平和な時代は永遠に続くように思われた。……だが、今から百年前、ある事件が起こるのと同時に終わりを迎えてしまう。

 ――国軍の将軍、「ケスファール」が、自らに「死後、魔族に転じる魔法」をかけて、自害したのである。その魔法は、ケスファールが秘密裏に開発した全く新しい魔法だった。


 その魔法によって生み出された魔族は、人間とほとんど同じ容姿と能力を持つ。だが、人間とは全く異なる特徴も、主に四つ持ち合わせている。

 一つ目は、老いることがなく、食事も睡眠も必要とせず、ただ「できる限りたくさんの人間を殺す」という本能に従って生きること。

 二つ目は、殺した人間を自らと同じ魔族に変えること。

 三つ目は、全ての個体が、基礎魔法と人間だった頃の固有魔法を、無限に使うことができること(ただし、その練度は生前の能力による)。

 四つ目は、人間を殺せば殺すほど、魔法を扱う能力が高まっていくこと。


 魔族の数は指数関数的に増えていき、王都マロートは一夜にして火炎に包まれた。この危機的な状況に対処するため、王国は、政府を東方州と西方州、南方州と北方州に分ける連邦王国制を取る。それぞれの州都には、魔族との戦いに特化した魔法使いを育成するための学校が新たに設置された。


 ――千九百年近く続いた平和な時代は、一夜にして終わりを迎えた。魔族の支配域は、日を追うごとに広がっている。魔族を滅ぼし、人々の平和を取り戻すため、魔法使いは今日も戦い続けている。

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