王国の闇を支配する最強最悪の貴族(陵辱系エロゲ主人公)に転生した俺、アブノーマルな展開は嫌いなので普通に穏やかな生活を……送ろうとしてたんだけど、気付いたら『ある意味』原作シナリオと同じ状態になってた

下等妙人

第一話 メスガキ(妹)のイジメがキツすぎる


「……どうしてこうなった?」


 鏡面に映る己が姿を目にしながら、俺は床にくずおれた。


 自室の只中に鈍い音が響く。


「ああああああ…………」


 胸中に渦巻く失意と落胆。

 それが意図せず、声となって漏れ出た。


「よりにもよって、なぜ、こいつなんだ……」


 復讐の仮面鬼と高貴なるスレイブ。

 略称、復スレ。


 主にアダルトゲームを開発するメーカー、クランク・アップが世に放った成人向けノベルゲームの一つだ。

 

 ジャンルはいわゆる陵辱系。

 さる侯爵家の若き嫡男、アルヴァート・ゼスフィリアの半生を綴ったものであるが……


 この少年がまぁ、ひどい。


 ある一件を経て強大な力を覚醒させて以降、欲望の限りを尽くし……

 そして、無惨な末期を迎える。


 陵辱系というのは基本、胸クソを楽しむものであると解釈しているのだが、それにしてもこいつの有頂天な有様は、いささか目に余るものがあった。


 ゆえに彼がに嬲り殺され、悲惨極まりない末路を辿ったことについては、主人公といえども致し方なしと納得したものだ。


 ……しかしよもや、自分がそんな奴に生まれ変わるとは思ってもみなかった。


「納得がいかない。ふざけるな」


 しくしくと涙を流しながら、俺は自らの運命を呪い尽くした。


 前世にてを迎えた、そのとき、俺は心の底から願ったのだ。


 もし輪廻転生などというものがあるのなら。

 次は平穏無事な、温かい人生を送りたい、と。


 ひるがえって。

 アルヴァート・ゼスフィリアのそれはどうだ?


 彼の人生に待ち受けているのは苦悶と憎悪、そしてドス黒い悦楽の果てに待ち受ける、因果応報である。


 何もかもこちらの願いに反したものだ。


 どうなってんだよド畜生。


「はぁ……しかし……なんと醜い顔だ……」


 鏡面に顔を映し、再び現実を目にしたことで、暗い気持ちが一層色濃くなる。


 タイトルにある仮面鬼というのはアルヴァートを表したものだ。


 彼は《魔物憑き》という先天性の病を患っており、顔面の左半分が異形と化している。


 右半分はそれなりに整ってはいるのだが、鬼に似た異形の面貌が、容姿の印象を最悪なものにさせていた。


「現状をいかに否定し、悪態をつこうとも……何も、変わることはない…………確かに、外見はアルヴァート・ゼスフィリア。しかし……心は紛れもなく、俺だ」


 鏡に映る己へと、言い聞かせる。


 この人生は自分のモノであって、アルヴァートのそれではない。

 ならば彼が辿らなかった道程を歩み、平穏無事な人生を享受することも、決して不可能ではないはずだ。



 …………と、そのように考えた俺は、実に愚かであった。



 己が願望を成就させることが、いかに困難であるか。

 俺にそのことを理解させたのは……


「では兄様にいさま。本日もよろしくお願いします……ね?」


 双子の妹。ルミエール・ゼスフィリア。


 彼女は実に見目麗しく、ツインテ状に纏め上げた美しい金髪を見るに、いわゆるツンデレ系美少女といった印象を受けるのだが。


 実際は。


「きゃははははははは! よわいよわぁ~い!」


 絵に描いたような、メスガキである。


「妹にっ! こんなっ! ふうにっ! やられてぇ~~っ! 恥ぁ~ずかしくないんですかぁ~~~~っ!?」


 アルヴァートは日常的に、虐待を受けていた。


 主にこの、ルミエールという妹の手によって。


「ねぇねぇ兄様ぁ~? この仮面みたいな顔、無理やり引っぺがしたらどうなるんでしょうねぇ~?」


 きっと、アルヴァートが抱えていた、人格の歪みは。


「きゃははははは! 兄様みたいなよわよわ男子の種なんて、この世に必要ありませんよねぇ~!? だからぁ~……踏み潰しちゃお~っと☆」


 この、ルミエールによる行き過ぎたイジメが、原因の大半を占めていたのだろう。


 あるときは魔法で撃たれ、あるときは金的を蹴られ、あるときは腹を殴られ、またあるときは異形の面貌を弄くられる。


 この鬼畜メスガキとの生活は、それだけでも十分に、心を壊すようなものだったのだが。


「アルヴァート。お前はもう、何もしなくていい」


 父母もまた、ひどい毒親であった。


 夜半。

 夕餉の席にて、父の冷ややかな言葉が胸に刺さる。


「《魔物憑き》であるがゆえに、お前には強大な異能が宿るものと期待していた。しかし……もはや待つにしても、限界だ」


《魔物憑き》は生まれ持った異形という社会的ハンデを背負う一方で、異能と呼ぶべき不可思議な力を目覚めさせることがある。


 されど現段階において、我が身にそのような兆候は見受けられず、それゆえに。


「時期当主の座はルミエールに譲る」


「えぇ~? いいんですかぁ~? ルミ、女ですケド?」


「ゼスフィリアの一族をまとめる者は、強者でなければならん。お前は確かに女だが、他に当主の座を継ぐに相応しい者がおらぬ以上、致し方のないことだ」


 別に、家督など継ぐつもりはなかったので、それ自体はどうでもいいことだった。

 けれども。


「ち、父上……学園への、編入は……?」


「許すわけがないだろう。お前のような一族の恥を、なぜわざわざ他家の令嬢・子息に見せ付けねばならんのだ」


「で、では……この身は今後、何を成せば……」


 問いに対し、父は深々と嘆息した。


「言ったはずだ。何もしなくてよいと。お前のようなゴミでも一族の血を引く者ではある。たとえ闇の支配者といえども、これを手ずから処分するほど私は冷血ではない。」


 父の発言はつまり、こういうことだろう。


 学園にはいかせない。

 世間に出すつもりもない。

 家の離れに閉じ込め、生涯、無為な時間を過ごせ。


 ……なんと、因果なことだろう。


 前世の末期と、まったく同じではないか。


「話は終わりだ。食事が済み次第、さっさと失せろ」


「きゃははははっ! 兄様かわいそぉ~!」


 俺は言われたとおり、食事を終え、早急に自室へと戻った。


 そうしてベッドに倒れ込み……前世における我が生涯を回想する。


 何事も、上手くいかぬ人生であった。


 ――学生時代。


 誰もが夢見る薔薇色のキャンパスライフを実現すべく、己を磨き、意中の相手を……


 あっさりと奪われた。

 チャラいイケメンに。


 清楚だったあの子は、夏休み明け、彼氏好みの黒ギャルになっていた。

 死にたくなった。


 ――青年期。


 学徒の本分は勉学であると断じ、俺は社会人としての半生に全てを賭けた。


 オタク趣味を全て なげうち、必死こいて努力したことにより、まずは難関大学の合格を果たす。


 卒業後は金融業に務め、若くして年収二〇〇〇万円を超えるエリート社員に。


 社内でも一目置かれ、異性の方から誘いを受けることもあったし、同窓会にいけば「我がクラスの出世頭だ」ともてはやされるのが常であった。


 けれども。

 皆が羨むような社会人としての半生は、しかし、なんら価値もないものだった。


 あるとき、ふと気付く。

 俺が求めていたのは温かな人生だったのだと。


 ひるがえって、今の自分はどうだ?


 苦悶に満ちた学生時代。

 その集大成は、果たして望ましいものなのか?


 ……否。断じて否。


 同性は皆、羨望と嫉妬の念を向けてくる。

 いつ背後から刺されるか、わかったものではない。


 異性は皆、俺の立場と所持するカネしか見てはいない。

 いつ離れていくか、わかったものではない。


 ……現状を客観視したことで、俺の心は失意の底へと落ちていった。


 何もかもを なげうって、そのうえで得られたものは。


 欲に肥えた体。

 矮小な自尊心。

 そして、他者に対する不審感。


 そんなものだけだと、そう悟ってからすぐ。

 俺は会社をやめた。


 ヒキニートになって、捨て去ったモノを取り戻すべく、オタク趣味に邁進した。


 そんな日々は、本当に。


 本当に本当に本当に。


「……なんの意味もない、無駄な時間だった」


 やがて鬱を発症し、衝動に身を任せ、自害。


 しかしそんな末期を迎えてもなお、俺は「無になりたい」とは思えず……


 だから。

 願ったのだ。


 輪廻転生などというものがあるのなら。


 次は、温かく、穏やかで。


 特別という名の苦痛もなく。

 劣等という名の苦痛もなく。


 ただひたすらに、心静かな人生を、歩みたい。


 だからこそ。


「……これは、チャンスなんだ。前世での過ちを、正すための」


 分相応を受け入れ、凡百の半生を歩む。

 前世にて叶わなかったそれを、この世界で。


「……そのためには」


 業腹だが、原作シナリオを一部なぞらえる必要がある。


 まずは環境を変えねば。


 我が身を虐げることを至上の悦楽とするメスガキ。

 我が身を無価値と断じ、生涯、飼い殺しにせんとする父母。


 これらに対処すべく、俺は。


「……この段階において、アルヴァート・ゼスフィリアは完全なる弱者。無能のそしりを受けて当然の劣等生。しかしながら」


 今、この身が扱える魔法は、下級に該当するもののみ。


 さりとて。

 一切の防御を行わず、後頭部にゼロ距離で、見舞ったなら。


 いかに下級魔法とて、人命を奪うに十分であろう。


 そういうわけで。


「ファイア・ボール」


 俺は前世と同じく。

 自らの手で、己が命を絶つのだった――






 ~~~~あとがき~~~~


 ここまでお読みくださり、まことにありがとうございます!


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 今後の執筆・連載の大きな原動力となりますので、是非!


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