第7話「秘めるもの」

「はァはァ……! 小堀! 大丈夫か!?」


お兄さんのどなるような声で、ディグは目を覚ました。


「あ、あれ……? 無事だ…」


「な、お前! これ全部お前がやったのか!?」


店には十数人の死体が転がっていた。


「わ、わからない……。僕は、敵の目から自分を見てたんだ……」


「……よくわからないが、無事でよかった…。死体を片付けよう……」


死体を数分かけ片付ける。


「悪いが、ここまでやっちまうと隠すのは無理だ。お前は内通者だったと報告する他ない。」


「そ、そんな……!」


「安心しろ。お前は死んだことにする。なんとか工作する」


既に時刻は16時を回っていた。


「夕勤には確か……、大室さんとワタナベか…。ワタナベは厄介だな…。絶対に副店長の座を狙ってる…。とりあえずお前は帰れ」


ディグは素直に従い、コンビニを出た。


帰り道、ディグはパーティーズを倒した"あれ"がなんだったかを考えた。


自分の心を奪われた後に現れたものだから、スモールなのだろう。


しかし、スモールに残虐性を感じたことの無いディグは、先程の行動をスモールがしたと考えるのは少し違和感があった。


しかしそれ以外で説明つかない。きっとスモールなのだろう…。


───その日の17時


「あれ? お兄さん…、今日はフルでしたっけ?」


夕方からシフトに入ったワタナベは、予想外と言った顔でブラザーに話しかけた。


「ああ、一日いるよ。それとワタナベ……パーティーズはやられた。」


ワタナベはまた一瞬驚いたような顔をして、すぐ真顔に戻った。


「そうですか……、お兄さんがいたのに? 小堀くんはどうしました?」


「小堀はおれがやった……」


「…そうですか。じゃあ死体は?」


「隠してある、見に来るか?」


「いいや……、いいですよ…。でも残念です」


「残念? 内通者は殺したぞ」


「いやぁ、いい戦力が入りまして…、"実験体"の実験が成功したんですよ…」


「……おまえマジにあの"実験"をやったのか?」


「ええ? 前から言っていたでしょう。ラボを借りて実験していました」


少し遠くから、大室さんが不思議そうにこちらを見ている。


「まあいい、これ以上喋ると一般のバイトにも迷惑はかかる。店長には報告しておけ、内通者は始末したと」


─────

「───とお兄さんは言っていましたが」


ワタナベと店長の会話だ。ミスターブラザーは部屋に盗聴器をしかけていた。


「死体は?」


「あるとは言っていましたが…」


「見せろ」


「わかりました。言ってみます」


「実験が成功したらしいが…、それはいつ活用するんだ?」


「その時が来たら──すぐにでも。でももう内通者は殺されましたが」


「……本当にそう思うか?」


店長はいつになく機嫌が悪い表情をしている。


「え?」


「殺されたやつが…、わざわざキレイにユニフォームをロッカーにかけていくと思うか…?」


「……!」


ディグのユニフォームはキレイな状態でロッカーにかかっていた。


仕事中に殺されたという設定だと、矛盾が生じる。


「私の息子を疑いたくはないが……。案外"その時 "は早く来るかもしれんな」



その後、とりあえずはディグは殺されたことになった。


そうして、そのままディグはコンビニには行かなかった。


ミスターブラザーもなんの行動も起こさず、"007"の危機感は薄まっていった。



2022年 7月


しかし、まだ諦めぬ男が1人居た。


副店長の座を狙う男、ワタナベである。


彼は独自の方法でディグを調査しており、発見の直前だった。


しかしそれに気付かぬミスターブラザーではない。彼もまた、ディグの家の近くで待ち伏せしていた。


「いいか…、この2ヶ月、無駄にすごしたんじゃあるめぇ…、そのフライパンを有効活用しろ!」


ディグはミスターブラザーと"能力反射"フライパンを開発していた。


これでディグも戦えるのだ。


「ワタナベが直接来るのか、はたまた別の戦闘員か…どっちでも油断するなよ?」


その時、ズシンと大きな音が響いた。


「っ!? なんですかお兄さん!」


「わ、わからねぇッ!!」


2人がいるのはディグの家である。2人とも慌てて家を飛び出す。


そこには、見覚えのある顔がこちらを見ていた。

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