ライフ・オブ・小堀

バクチ

第1話「小堀という男」

『ライフ・オブ・小堀』

EPISODE1「小堀という男」


彼の名前は小堀アキラ、22歳。

東京大学理系3類に合格、その後医学部に進学している、エリート学生だ。

さらに今春には大手企業「エスエープロダクション」への内定も確定している。

だが、彼には1つ大きな悩みがあった。

それは「解離性同一性障害」を患っている事だ。彼の中には「ディグ」というもうひとつの人格が存在する。さらにディグは非常に要領が悪く、知識もない、それでいて自信過剰というひどい性格であった。

しかしディグが表に出るのは19-21時頃、その時間を避ければ、他人にディグの存在が知られることは無かった。

主人格である彼の人格の名前は「スモール」である。


2022年3月


その日は3年間働いたバイト先への最後の勤務日だった。彼は新人の子に仕事を教え、世話になったパートの方にスイーツも送った。そうして、彼は持参したいろはすを1口のみ、長年恋心を抱いていた大室さんに告白をした。


結果は惨敗。しかし彼はへこたれない、なぜなら新しい生活が待っているからだ。


1ヶ月後、彼のエスエープロダクションへの勤務が始まった。


───4月

小堀、「株式会社エスエープロダクション」入社。


勤務初日、電車に乗り込む小堀をこっそりと監視する男がいた。

小堀はその気配を感じ取り、乗り換えで大宮駅で降りた際、その男の背後を取り、指先を男の首筋に触れさせた。


そのまま一言話した。


「…何の用だ」


男の額を冷や汗が流れる。


「……合格だ、新入社員小堀…いや、コードネーム"リトルホール"……!」


「意味がわからない。何者なんだ? アンタは……」


「詳しくは本社"エスエー"で話す……、この手をどけてくれ……」


小堀は素直に応じ、電車を乗り換え本社へ到着した。


「あなたが小堀くんね?」


社内へ入ると顔を隠した老婆のような人物が突然話しかけてきた。


「噂は聞いているわ……」


「この会社はなんなんだ…! 俺に何をさせたい!」


小堀は女を怒鳴りつけた。周りの視線が集中するが、小堀はそんなことを気にしない。


「あなたへ任務を与えるわ…」


女はそういい、紙を小堀へ渡した。


「これは……!」


小堀へ与えられた任務は『秘密結社"007"への潜入調査』だった。


「007……?」


「ええ、問題は無いでしょう?」


問題は大アリだった。小堀はこの紙に書かれている、007の拠点の住所を知っていた。


先日までの自分のバイト先、セブンイレブンだったからだ。


「007って……そういうことかよ……?」


その時だった。かつての職場がよく分からぬ秘密結社のアジトだったという受け入れ難い事実と、そこに侵入しなくてはならないという運命で、精神に異常をきたしたのかもしれない。


何者かがそこにつけ入り、普段出てくるはずのない時間帯に、ヤツが現れた。


彼は自分の体を喪失した。


彼はもう彼では無い………


小堀の主導権を、ディグが握り始めた。


スモールはなんとか、意識が朦朧とする中で、自宅に着いた。だがその頃にはほとんど意識はディグに乗っ取られていた。


ディグが知っていることは、自分がコンビニへ行くべきだということだけ。


「俺があのコンビニに戻れば、みんな助かるだろうな!」


彼は実際にコンビニでバイトをしたことがない。だがスモールの高い評価を自分のものだと勘違いしている。


深く考えることも無く、小堀、いやディグはコンビニエンスストア、いやそれもそうではない……秘密結社"007"へ向かった。

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