第34話 第一騎士団の敗走

騎士団長バラン=ラグード以下800名の第一騎士団は、その年の4月、王国北西の魔の森近くにある砦がバンパイアから襲撃されたことを受け、奪還に向かった。

しかし150年前と同様に到着時にはもぬけの空となってた。


前回と異なることは砦に生き残った者がいた。


「私は、ここの調理師です。

夜に在庫の確認で食糧倉庫にいたところバンパイアどもに襲われました。

バンパイアはニンニクが苦手だと聞いたことがあったのでニンニクの山に隠れてやり過ごしたのです。

私は仲間を見殺しにして生き延びちまいやした。」


と生存者は涙ながらに説明した。

バラン騎士団長は、その者の肩を叩いて言った。


「よく生き延びた誇って良いんだぞ。

ところで砦の他の者がどうしたかわかるか?」


「ええ、静かになったので私が倉庫の隙間から外を覗くと北方に門からみんな出て行きました。死体も一緒に運んでいきました。」


「お前は良い情報を残してくれた。兵に送らせよう。王都に戻ってゆっくり休め。」



第一騎士団は、生存者の奪還のため全軍北方へ追撃に向かった。


魔の森では、ゴブリン、オークらの戦闘により約100人が戦死した。

さらに魔の森を進むと土地が開け集落が確認された。


斥候部隊が集落を確認し戻った


「確認したところ人の村の様でした。こんなところにあるなんて信じられません。

普通に農作業などで生活していることが確認されました。」


と報告した。


バラン騎士団長は少し考え部下に指示を出した。


「妙だな。森に中に生活している村があるなど聞いていないぞ。間者を紛れ込ませ確認できるか?」


「はっわかりました旅の商人を装わせた間者を向かわせます。」



その翌日の夕刻、商人を装った間者が部隊の天幕に帰還した。

間者は小さな女の子を連れてきた。


バラン騎士団長は尋ねた。


「この子はなんだ。なぜ村の子供を攫ってきた?」


「見ていただいた方が早いと思います。間もなくです。」


そう言って間も無くすると、女の子はウーウーと唸りながらうずくまった。

すると次第に全身から銀色の体毛が伸び出し、顔も狼の顔に変わっていった。


「なんと!ワーウルフか?」


「そうです。我々が村に入ると村人はみんな警戒していましたが、みんな人間と同じでした。

村には宿屋はなく頼み込んで村長宅の納屋を貸してもらったのですが、村長からは夜間絶対に外に出ないように言われたのです。

我々が夕暮れ時に納屋の隙間から外を確認したところ、日没とともにワーウルフに変わるのを見たのです。


「それで翌日この子を連れて戻ってきたわけか。ご苦労だった、このワーウルフの娘は監禁しておけ、殺すなよ。」


この時、騎士団長は何か悪い予感を感じたことから深夜夜通しで警戒に当たらせた。


「敵襲だ!」

深夜3時こと突然兵の叫び声が上がった。

暗がりからは、突然数十頭の狼が部隊になだれ込んできて襲いかかってきた。


騎士団は応戦し、多くの狼を仕留めたが、それが毎晩散発的に続き、100名の兵が命を落とした。

また狼は日に日にその数を増やしていった。


「騎士団長、襲ってくる狼はあの村の住民の数を超えています。ここが引きどきかと。」


「ここで我々が逃げて生存者を見捨てる気か?奴らは言葉が話せるのだったな。明日、あの村を落とす。そこで降伏させるその村の者と引き替えに砦の者と捕虜交換を申し入れる。」


と騎士団長は決断した。


しかしこの判断が大きな間違いとなった。

騎士団が村に突入すると、捕虜交換のため女と子供の身柄を確保した。

その後、混戦状態となったが、人数の差があるにもかかわらずワーウルフ達は立ち向かってきた。

狼に変身せず人間に姿のままでだ。

村の制圧は凄惨を極め、村の男は全滅した。


バラン騎士団長は、村人は多くても100名はいなかった5倍以上の人員をかけての制圧なので抵抗する間も無く降伏すると考えていた。

その為、出来るだけ殺さないよう部下に指示していたが。

しかし、結果は最後の一人まで降伏をしないではないか。


「なんということだ。捕虜交換など交渉相手もいないではないか。」


騎士団の元には、数十名の女、子供の捕虜が残った。

こいつらの目は死んでいない。夜になれば狼になり暴れ出すだろう。ここに残しても後を追って最後の一人まで襲いかかってくるような気がした。


撤退を決定し、捕虜は国に連れて帰ることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る